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[2005年2月:公表]

通貨先物オプション取引の勧誘と取引につき、不法行為に基づく損害賠償請求を認めた事例

 本件は、専業主婦に対するアメリカ市場における通貨先物オプション取引の勧誘と取引について、適合性原則違反・説明義務違反などにより全体として違法であるとして、1割の過失相殺としたうえで、不法行為に基づく請求を認容した事例である(平成16年7月9日大阪高等裁判所判決)。

  • 判例集未登載
  • 一部認容

事件の概要

原告X:消費者
被告Y:海外先物オプション取引の受託等を業とする株式会社
関係者A:Yの従業員でXの担当者

 Xは、昭和9年4月生まれの女性で、昭和58年に脳出血を発症して無職となり、夫は老人ホームに入居していたため個人年金で一人暮らしをしていた。本件取引勧誘当時は、健忘失語症などの持病を抱えていた。Xは、平成14年4月、Aからアメリカ市場における円の先物オプション取引について必ず儲かる等の勧誘を受け、ハイリスクな取引とは思わずに勧誘されるままに取引に応じ、同年4月10日から翌5月20日までの間、3173万6634円の損失を被った。Xは、これらオプション取引による損害は、適合性原則違反、説明義務違反による違法な取引だとして、不法行為を根拠として損害賠償請求した。

 1審の大阪地裁平成15年10月21日判決は、Xの請求を認め、上記損失全額と弁護士費用320万円の合計額である3493万6634円の損害賠償請求を認容した。これに対してYは不服として控訴した。本判決は、この控訴審判決である。



理由

 本判決は、次のような理由で損害賠償請求を認めた。まずオプション取引について、「少ない資金で大きな取引をすることができ、損失が投資額に限定されているという面で、投資商品としての特徴があるが、価格変動の複雑さからして、一般人が将来のプレミアムの価格変動を合理的に予測し、高額な手数料を含めた損益分岐点を的確に把握し、必要に応じ適時にオプションを売却するなどして利益を得、あるいは損を確定して大きな危険を回避することは、本来、相当に困難な金融商品であるというべきである」としたうえ、適合性原則との関係について、「Xが本件取引をするにふさわしい者であったとは到底認められず、Aらの本件取引の勧誘行為は適合性原則に抵触するといわざるを得ない」と判断している。

 次に説明義務違反について、YはXに書面ないし口頭で説明して理解を得て、その旨の確認書面に署名捺印を得ている等と主張したが、本判決は「重要なのは、これらの書面と口頭での説明によって、Xに対してオプション取引についての十分な理解を与えることができたかであるところ、Xが上記書面の説明をもってしてもオプション取引の基本的概念について理解し得なかったことは明らかである」としてYの主張を排斥した。

 そして、勧誘方法全般について、「Aらは、Xに対し、十分な説明や的確な情報提供をすることなく、かえって断定的判断を提供してその有利性を過度に強調し、Xの自由な判断を拘束して本件取引を勧誘したものと認められる。したがって、Aらの本件勧誘行為は、説明義務に違反するものというべきである」と判断している。そのうえで、「Aらによる本件取引の勧誘行為は、適合性原則、説明義務および新規委託者保護義務に反し、全体として違法性を帯びるというべきである」として、全体として違法としている。

 ただし、原判決は過失相殺を認めなかったが、本判決は1割の過失相殺をしている。その理由としては、Xはオプション取引の説明書やAらの一応の説明で、最悪の場合資金がゼロになる可能性を抽象的には理解し得たこと、弁護士を依頼しYと2カ月間交渉していた間に転売するなどして損害を抑えることができたかもしれないという点が挙げられている。



解説

 オプションとは、特定の商品を将来の一定期日(満期日)または期間内に予め決めた価格(権利行使価格)で買い付ける権利(コールオプション)、あるいは売り付ける権利(プットオプション)である。そして、オプションの代金をプレミアムという。オプション取引は、デリバティブ(金融派生商品)の一つで、コール、プットそれぞれに買いと売りがある。買いの場合には、売り手に払うプレミアムに損失が限定されている半面、利益は制約がない。売りの場合には、利益がプレミアムに限定されている半面、損失は限定されていない。オプション取引に関する適用法規は、対象取引によって分かれているので注意が必要である。

 まず、国内の証券取引所で行われている日経平均株価指数オプション取引の場合、証券取引法が適用される。国内の商品取引所で行われている商品先物オプションについては、商品取引所法の適用がある。

 しかし、海外商品先物業者が行っている海外市場の商品先物オプション取引の場合には、商品取引所法の適用はない。海外市場の商品先物取引に関しては、海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律が適用されるが、オプション取引は先物取引の概念とは異なるために、同法の適用もない。しかし、海外市場におけるオプション取引のうち、通貨等の金融先物オプションに関しては、金融先物取引法が適用される (同法は、市場が国内であるか海外であるかを問わず適用される仕組みになっている)。

 Yは、海外商品先物オプションと海外通貨先物オプションの両方を展開している。前者については直接適用すべき行政法規がないので、民法の不法行為の一般法理によって解決する他はない。後者については、金融先物取引法の適用がある。ところが、同法はもともと金融先物取引に一般個人が参入することを想定していない時代にできた法律で、一般投資家保護の規定が整備されていない。そこで、裁判ではやはり民法の不法行為が活用されている。ただし、金融先物取引法の適用はあるので、金融先物取引業協会のあっせんの利用は可能であり、その手続きで解決した事例もある。

 なお、外国為替証拠金取引被害の防止のため、平成16年12月1日成立の改正金融先物取引法によって、一定範囲で不招請の電話・訪問勧誘が禁止されたほか、適合性原則も明記されたことなど、大幅に投資家保護規制が加えられたことに注意する必要がある (平成17年7月1日施行)。

 本判決は、かつての海外先物業者による海外市場の通貨先物オプション取引の事案における判決である。Yに対する損害賠償請求の判決としては、東京地裁平成13年6月28日判決(参考判例(4)) ほか、参考判例(1)ないし(6)に掲げるものがあるが、本件は初の高裁判決である。

 日経平均株価指数オプション取引についての判決は、京都地裁平成11年9月13日判決(参考判例(7)) と千葉地裁平成12年3月29日判決(参考判例(8))を参照されたい。



参考判例

  1. (1)東京地裁平成13年2月9日判決
    (過失相殺なし。先物取引裁判例集30号135ページ)
  2. (2)名古屋地裁平成13年2月21日判決
    (過失相殺3割。先物取引裁判例集30号163ページ)
  3. (3)名古屋地裁平成13年2月28日判決
    (過失相殺4割。先物取引裁判例集30号288ページ)
  4. (4)東京地裁平成13年6月28日判決
    (過失相殺前半の取引について2割、後半の取引について5割。金融・商事判例1148号46ページ)
  5. (5)東京地裁平成15年3月31日判決
    (過失相殺15%。先物取引裁判例集34号166ページ)
  6. (6)名古屋地裁平成15年8月19日判決
    (過失相殺4割。先物取引裁判例集34号454ページ)
  7. (7)京都地裁平成11年9月13日判決
    (過失相殺7割。証券取引被害判例セレクト14号379ページ)
  8. (8)千葉地裁平成12年3月29日判決
    (過失相殺15%。判例時報1728号49ページ)


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