[本文へ] 消費生活・消費者問題に関する事例や対処方法を紹介しています。

現在の位置 : トップページ > 相談事例・判例 > 消費者問題の判例集 > 通所介護サービス施設内での高齢者の転倒における経営者の責任

[2004年10月:公表]

通所介護サービス施設内での高齢者の転倒における経営者の責任

 本件は、通所介護サービスを受けていた高齢者(事故当時95歳・女性)が、静養室での昼寝から目覚めた際、従業員が十分にその動静を監視していなかった過失により、静養室入口の段差から転落し負傷したものとして、介護施設の債務不履行責任が肯定された事例(慰謝料合計470万円を認容)である。(福岡地方裁判所平成15年8月27日判決)

  • 判例時報1843号133ページ
  • 一部請求認容(確定)

事件の概要

X:消費者
Y:介護サービス施設経営の法人
A:Xの娘
B:介護支援専門員
C:Y従業員

 X (事故当時95歳、高齢に伴う身体機能および精神機能の低下により、要介護4の認定を受けていた女性) は、娘Aを通じて介護支援専門員Bに作成してもらったケアプランに基づき、Yと通所介護契約を締結した。

 本件事故当時、Y従業員Cは昼食後ソファーに座っていたXを、両手を介護しながら静養室に連れて行き寝かしつけた。Cは静養室に背を向ける形でソファーに座り、他の利用者の側に行ったりしていた。その後、玄関で誰かが「こんにちは」と言ったため、Cがこれに対応し、他の従業員にXの見守りを交替するよう声をかけることもなく、来客にY施設について説明を始めた。説明をしている間に、Xが静養室入口の段差の所で転落し負傷(右大腿骨顆上骨折)した。

 Xは、静養室の入口には床との間に40cm以上の段差があり、Xが目覚めて動き出した場合には転落の危険があるのに、Y側は十分に見守りをすることを怠った過失があるとして、債務不履行を理由に後遺障害慰謝料等の損害賠償を請求した。

 これに対して、Yは、Xが昼寝から目覚めて動き出すことはまったく予見し得なかった。段差は利用者が直接に上がったり、下りたりするには高過ぎるので、上がるときも下りるときもいったん座ってからということになり、構造上も問題はない、などと責任を争った。



理由

1 Xは、当時95歳で独立歩行は困難であったが、物につかまるなどしての歩行は可能であり、また、Y施設を利用するようになってからは、活動性を増していた。

2 通所介護契約の利用者は、高齢等で精神的、肉体的に障害を有し、自宅で自立した生活を営むことが困難な者を予定しており、事業者は、そのような利用者の状況を把握し、自立した日常生活を営むことができるよう介護を提供するとともに、事業者が認識した利用者の障害を前提に、安全に介護を施す義務がある。

3 Xには歩行困難があり転倒の危険があることを、Yは知らされていた。Xは、視力障害があり、痴呆もあったのだから、静養室入口の段差から転落する恐れもあったといわざるを得ず、この点についてもYは予見可能であった。CはXの見守りを他の従業員に引き継ぐこともなく席をはずし、Xの寝起きの際に必要な介護をしなかった過失があり、Yは本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

4 Xは症状固定時において歩行不能となっており、本件事故時のXの年齢等一切の事情を考慮すれば後遺障害慰謝料は350万円が相当である。また、症状固定まで入院加療157日を要する傷害を負っており、傷害慰謝料として120万円が相当である(合計470万円認容。弁護士費用否定)。



解説

 本判決は通所介護における事故についての初めての判決である。「利用者は、高齢等で精神的、肉体的に障害を有し、自宅で自立した生活を営むことが困難な者」であり、「事業者は、そのような利用者の状況を把握し」「安全に介護を施す義務」があることを認めた点で注目される。

 介護契約の事例ではないが、多発性脳梗塞で入院していた老女(72歳)が、痛室内で転倒して死亡した事例で、左上下肢の片麻痺のため転倒の危険があることを認識していたのであるから、当該患者がトイレに行き来する際には必ず付き添い、転倒等の事故の発生を防止すべき義務があったとして、病院側の責任を認めた判決がある(参考判例)。

 精神的、肉体的に障害を持つ者の介護を契約内容とする介護契約では、利用者の障害に応じて当然その安全への配慮義務も高まり、最善の安全への配慮が要求されることになろう。



参考判例

東京高裁平成15年9月29日 判例時報1843号69ページ



消費者問題の判例集トップページへ

ページトップへ