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[2004年8月:公表]

社債の買い付けの勧誘における重要事項の説明義務違反

 本件は、証券会社が消費者に社債の買い付けを勧誘する際に、金融商品版売法に定める説明義務に違反したとして、7割の過失相殺のうえで、損害賠償が認められた事例である。(東京地方裁判所平成15年4月9日判決)

  • 判例時報1846号76ページ
  • 一部容認(控訴)

事件の概要

X:原告(消費者)
Y:被告(証券会社)
A:YのX担当者

 Xは、昭和38年に高校を卒業し、同44年に結婚してからは勤務経験のない主婦(後記取引当時56歳)である。Xは、平成10年9月にYのB支店に証券総合サービス口座を開設したものの、金融商品の取引経験がないこともあって、実際には取引しないままで推移していた。平成13年3月ごろ、Xは実父の相続によって現金3430万円を取得し、これをYで運用するため同年3月15日に上記口座に入金した。Aは、その後Xに対してドル建てMMF、ワールド株、日本ケーブル株を勧誘し、Xはこれらを買い付けていた。

 同年5月になり、Aはマイカル無担保社債を勧誘した。当時の社債の格付け(日本格付投資情報センターによる)はBBBであったことから、Aは償還期限内に倒産する恐れはないと判断し、「償還期限まで保有していれば利息もつき、元本も返ってくる、銀行の定期預金と同様の元本保証の商品である」などと説明し、発行主体の倒産等による元本割れのリスクがあることを説明しなかった。これを受けて、Xは同月7日に500万円分を484万8020円で、10日にさらに500万円分を485万4246円で買い付けを行った。マイカルは、同年9月14日民事再生手続き開始の申し立てを行い、開始決定がなされた(その後会社更生手続きに移行)。

 Xは、金融商品販売法3条1項2号に定める重要事項の説明がなされておらず、また本件社債の償還を受けられなくなつたことは明らかだとして、上記買付代金合計額である970万2266円の支払いを求めて訴えを提起した。これに対してYは、平成13年2月中旬ごろ全顧客に対して同年4月の金融商品販売法の施行に先立ち、同法に定める重要事項を記載した説明資料を送付しており、またXに対しては3月30日にAが電話で同法の趣旨や重要事項の説明をしている、Aはその他の機会にも倒産リスクに言及したことがあったことなどから、説明義務違反はないと主張し、さらに説明義務違反と損害との因果関係を争い、また予備的に過失相殺の主張を行った。



理由

 本判決は、7割の過失相殺をしたうえで、Xの損害賠償請求を認容した。

 本判決は、金融商品販売法の説明義務の対象となるべき事項について、同法3条1項2号所定の元本欠損が生じる恐れとその要因にとどまり、商品の内容や仕組みは含まれないとしたうえで、上記重要事項の説明資料についてはXがその内容を確認したとは認められないとした。また上記の電話による説明については、まだXは社債取引を予定しておらず、理解し得る状態ではなく、その他の機会の説明も明確さを欠き、かえって本件社債が定期預金と同様の安全な商品であるとして勧誘したと認定し、同法の説明義務を履行していないとした。さらに、因果関係がないとの主張は採用せず、マイカルの更生計画案が提出されていない現状では回収見込み額も判明しておらず、損害は買付金額全額であるとした。

 しかし、金融商品販売法違反を根拠とする損害賠償請求の場合においても民法722条の過失相殺の適用はあり、(1)投資における自己責任原則、(2)XはAの説明を受けて安易に多額の商品を購入している、(3)Xはメモを取ったり録音したりしているが後日それを見直したり聞き直したりしていない、(4)Aの勧誘態様および内容等からすれば、Xの過失は7割であるとして、3割に当たる金291万667円の損害賠償を認容した。なお、弁護士費用は請求されていない。



解説

 本判決は、金融商品販売法違反を肯定した初めての判決と思われる。この法律の成立した時点においては、説明義務に関する判例法理がすでに確立していた。そこで、実務上は同法施行後においても民法709条・715条に基づく損害賠償請求をすることがほとんどである。しかし、信用リスクの説明義務に関しては、価格変動リスクの場合と異なって、判例法理が確立しているとはいえない段階であるため、金融商品販売法3条1項2号の説明義務の役割が重要になってくる(信用リスクの説明義務に関する判例の状況については、東京地裁平成12年4月26日判決の解説と後記の参考判例を併せて参照されたい)。

 平成13年4月の金融商品販売法の施行に先立ち、大手証券会社各社は、同法に定める重要事項の説明資料として、一斉に全顧客に説明書を送付した。本件においてもYは、説明資料を送付しているので説明がなされていると主張している。このような主張が証券会社からなされることは今後も十分考えられるので、本判決のこの点に関する判断は、先例として重要な意味を持っている。また、電話にょる一般的な説明に関しても、説明義務の履行と認めておらず、説明書の点と併せて、実務上極めて重要な先例である。そして、説明義務の不履行と損害との因果関係、損害額の認定も妥当である(同法5条に損害額と因果関係の推定規定がある)。

 金融商品販売法違反と過失相殺に関しては、同法6条は民法722条の適用を想定しており排除されないとする見解があり、本判決も同じ立場をとっている。この考え方は、金融商品販売法は説明義務違反の違法性を明確にしたに過ぎないとする。しかし、同法は金融商品販売業者等に重要事項についての説明義務を明確にして、顧客がそれを信頼して取引することができるようにしたものであることが、立法経過からも明らかである。一方で説明義務を課しながら、他方で提供された情報の正確性などを自ら検討すべきであるという、古典的民法の原則に従って過失相殺するのは矛盾しており、原則として過失相殺すベきではないとの説も展開されている。こうした考え方からすると、本判決の挙げる過失相殺の根拠は妥当でないことになる。過失相殺があり得るとすれば、担当者がかなり丁寧に説明したがそれでも顧客の理解が十分とまではいえず、その結果説明義務違反は肯定されるといった事案(適合性原則に違反しない事案であるのが前提である)と思われる。本判決の挙げるような論拠で過失相殺するのは、妥当とは思われない。



参考判例

  1. (1)福岡地方裁判所小倉支部平成10年11月24日
    証券取引被害判例セレクト13号91ページ
  2. (2)札幌地方裁判所平成12年4月26日
    金融・商事判例1096号12ページ
  3. (3)東京地方裁判所平成12年4月26日
    金融・商事判例1096号12ページ
  4. (4)東京高等裁判所平成12年10月26日
    判例タイムズ1044号291ページ
  5. (5)東京地方裁判所平成12年12月19日
    証券取引被害判例セレクト17号729ページ
  6. (6)東京高等裁判所平成13年8月10日
    証券取引被害判例セレクト18号102ページ


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