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[2004年7月:公表]

欠陥建売住宅を購入した者に対する建築士の責任

 本件は、購入した建売住宅に重大な欠陥があったという事例である。この建物は建築士による設計およびエ事監理が必要とされるものだったため、建築確認申請の際に一級建築士が建築確認申請書の工事監理者名欄に自己の氏名を記載し、かつエ事監理を承認する旨の届出書に署名押印して提出したが、実際にはエ事監理等をしていなかった。そこで、本件建物の購入者は売買契約を解除し、建築士に損害賠償を求めたところ、建築士の責任が認められた。(最高裁判所平成15年11月14日判決)

  • 判例時報1842号38ページ
  • 上告棄却

事件の概要

X (原告、被上告人):建物の買主
Y (被告、上告人):建築設計の会社
A:一級建築士 (Yの代表取締役)
B:建設業者

 Xは、Bから、Bの築造した建売住宅を購入した。Bは、建売住宅の販売を計画した際に、Aに対し、建築確認申請の代理と確認申請図面の作成を依頼した。Aは、図面を作成し、建築確認申請を代行して確認を得た。確認申請書の工事監理者名を記入する欄に一級建築士の肩書を付したAの氏名を自ら記載して提出した。また、申請書には「建築基準法第5条の2の規定による工事監理者の選定(変更)について(届)」と題する書面が添付された。これには、BはAを工事監理者として定めたと記載されており、そこにYが記名押印し、Aは工事監理をすることを承認するという記載がされていて、そこにAが記名押印していた。しかし実際にはAは、Bから工事監理までを依頼されていなかった。

 市当局は建築確認申請の際に工事監理者を定めておくよう指導しており、確認申請書に工事監理者名を記載し、また前記届出書を添付する必要があった。そのようにしないと、事実上、建築確認申請は受理されず、確認を得ることができなかった。Aは、Bに対し、工事監理者をどうするか尋ねたが、とりあえずAということにして確認を受けるよう依頼されたため、前記のような方法で届け出た。Bは、建築主兼施工者として本件建物の工事を行ったが、その際、建築確認を受けるために用いた設計図書とは異なる施工図面に基づき、しかも実質上工事監理者がいない状態で建築工事を実施した。

 Bのした工事は、著しい手抜き工事であり、重要な構造部分において建築確認を受けた建築物の計画と異なる工事が実施されたため、建築基準法が求める構造耐力を有しないなど、重大な欠陥のある建物となった。Bから建物を買ったXは、本件建物の安全性に疑問を抱くようになったため、売買契約を解除して、Bに対し、支払済代金の返還と損害賠償を求め、このXの主張は本件とは別の訴訟において認められた。しかし、Bには支払能力がないため、XはBから損害賠償を受けることができない。

 そこでXは、Aは建築士としてその業務を誠実に遂行すべき義務を負っているのにこれを怠ったことによりXが損害を被ったと主張して、不法行為に基づく損害賠償を求めた。

理由

 建築士法および建築基準法の各規定の趣旨は、建築物の新築等における設計および工事監理に係る業務を、その規模、構造等に応じて、適切に行い得る専門的技術を有し、かつ、法令等の定める建築物の基準に適合した設計をし、その設計図書のとおりに工事が実施されるように工事監理を行うべき旨の法的責務が課せられている一級建築士、二級建築士または木造建築士に独占的に行わせることにより、建築される建築物を建築基準関係規定に適合させ、その基準を守らせることとしたものである。つまり、建築物を建築し、または購入しようとする者に対し、建築基準関係規定に適合し、安全性等が確保された建築物を提供することを主要な目的の一つとするものである。

 このように、建築物を建築し、または購入しようとする者に対して建築基準関係規定に適合し、安全性等が確保された建築物を提供すること等のために、建築士には建築物の設計および工事監理等の専門家としての特別の地位が与えられていることにかんがみると、建築士は、業務を行うに当たり、新築等の建築物を購入しようとする者に対する関係において、建築士法および法の上記各規定による規制の潜脱を容易にする行為等、その規制の実効性を失わせるような行為をしてはならない法的義務があるものというべきである。

 建築士が故意または過失によりこれに違反する行為をした場合には、その行為により損害を被った建築物の購入者に対し、不法行為に基づく賠償責任を負うものと解するのが相当である。

 Aは、建築確認申請書に実体に沿わない記載をしたのであるから、Aには自己が工事監理を行わないことが明確になった段階で、建築基準関係規定に違反した建築工事が行われないようにするため、適切な措置を執るべき法的義務がある。しかしAは、何らの適切な措置も執らずに放置し、これにより、規制の実効性を失わせたものであるから、Aの各行為は、上記法的義務に違反した違法行為と解するのが相当である。そして、Bから重大な瑕疵のある本件建物を購入したXは、Aの上記違法行為により損害を被ったことが明らかである。したがって、YはXに対し、上記損害につき、不法行為に基づく賠償責任を負うというべきである。

解説

1 建築士は、設計・工事監理の業務の適正を図り、建築物の質の向上に寄与する使命を負い(建築士法1条)工事監理業務を受任した場合は、工事を設計図書と照合し、そのとおりに実施されているかを確認しなければならず(同法2条6項)、設計図書のとおりに実施されていないときは、工事施工者に注意を与え、施工者が従わないときは、その旨を建築主に報告しなければならない(同法18条3項)。その狙いは「三権分立というか、設計とそれから監理と施工……に分かれたような状態であること」(注1)であるが、しばしば実態は「建築士さんと建設業著さんは……建築で金を儲けているという仲間意識がある」(注2)。この事件もまた、このような実態の一つの表出である。

注1 久保勝彦・発言「欠陥住宅紛争の現場から」日本弁護士連合会消費者間題対策委貞会〔住宅問題を考える/住宅は人権〕’99年夏期消費者セミナー報告書70ページ
注2 澤田和也・発言・前掲書70ページ

2 XとYないしAとの間には契約関係がないから、損害賠償請求の根拠としては民法415条ではなく、この事件の判決が説くとおり、不法行為の同法709条が考えられる。Aを代表取締役とするYは、Aが義務を怠ったためXが被った損害について、相当因果関係のある限度でこれを賠償する義務がある。

 具体的な損害の認定として第二審判決は、Xの損害はBの著しい手抜き工事により発生したものであるが、これほどの違法工事が行われることはあまり例のない事態であり、必ずしも容易に予見できたとまではいい難いことと、工事監理者の変更はB限りでできるところであり、AがBにおいて正当に変更の手続きをして工事をしているのであろうと考えたとしてもある程度やむを得ない面がないとはいえないこと、およびAの義務違反の性質に照らすと、Aの注意義務違反は、Xが被った損害を2455万5460円として、その一割程度である245万円について相当因果関係があると認めるのが相当であるとしていた。最高裁判所の判決は、この第二審判決に対する上告を棄却したものである。

3 建築士に求められる責任の重さを考えるうえで、建築士法1条、2条6項、18条3項などの建築士法の規定に注意が払われるべきである。それらは、単に当事者である建築士と監理者の関係を規律するにとどまるものではなく、建築工事監理を適正ならしめることにより、建築物の安全を確保し、広く国民の生命・健康・財産を保護しようとするものである。裁判例の中には、建築士は、当事者以外の第三者に対する関係においても義務を負うとしたうえで、建築士が建築確認申請に際し工事監理者の名義を貸したような場合に、その関与は、「建築確認通知を騙し取ったといわれてもやむを得ないであろうし……工事監理者を置くべき建築主の義務の潜脱に手を貸したものである」とまでいうもの(後掲)があり、この事件の判決もまた、こうした裁判例と基調を同じくするものである。

参考判例

大阪地方裁判所平成12年6月30日判決
判例集未登載(日本消費経済新聞’00年8月21日付)