[本文へ] 消費生活・消費者問題に関する事例や対処方法を紹介しています。

現在の位置 : トップページ > 相談事例・判例 > 消費者問題の判例集 > 大学入学の辞退と学納金の返還

[2004年4月:公表]

大学入学の辞退と学納金の返還

 大学の合格発表後に学納金を納入したが、結局入学を辞退した事例で、契約を解除しても入学金の返還を請求することはできないが、既払い授業料の不返還特約は消費者契約法9条1号に該当し、無効であり、大学には平均的損害が発生していないため、Yは授業料全額を返還する義務を負うとして、4月までに入学を辞退した者に入学金以外の返還のみが認められた事例である。(大阪地方裁判所平成15年10月6日判決)

  • 判例時報1838号104ページ
  • 一部認容、一部棄却(控訴)

事件の概要

X1、X2:原告 (受験生)
Y:被告 (大学)

 X1はY大学の平成14年度入学試験(推薦入試)を受けて合格し、入学金および前期授業料を納付したが、平成14年3月14日に入学辞退届を提出した。X2は、Y大学の平成14年度入学試験(一般入試)を受けて合格し、入学金を納付したが、平成14年3月25日までに前期授業料、誓約書等を提出せず入学を辞退した。

 Yの平成14年度入学試験要綱には、推薦入試に関し、「九(4)入学手続を行った者が、何らかの事由で入学を辞退する場合の申出期限は、平成14年1月24日までとします」「平成14年1月24日までに辞退の申し出のあった者の納付金については、授業料前期分を返還します」「(5)いったん納入された納付金は、前出(4)の場合を除きいかなる場合も返還しません」という規定があり、一般入試に関しても、同様の規定(以下、推薦入試を含め上記規定に基づく学納金の返還に関する特約を「本件特約」と総称する)があった。その後、Yが本件特約に基づき一切納付金の返還に応じないため、X1については入学金および前期授業料、X2については入学金の返還を求めた事例である。



理由

1 在学契約

 在学契約は、大学が学生に対し、学生としての身分を取得させ、文部科学省の定めた一定の基準に従って教育施設を提供し、あらかじめ設定した教育課程に従って授業等の教育を行うなどの義務を負い、他方、学生は、その対価である授業料等を学校に支払う義務を負うことを主たる内容とする契約であって、主として準委任契約、付随的に施設利用契約等の性質を併せ持つ有償双務の契約である。そして入学試験に合格した者が、合格発表時から直ちに在学契約関係の拘束を受けると解することは当事者の合理的意思に合致しないものであって相当でなく、社会通念上、学生が入学金を納付した場合には、その時点においてその大学に入学する意思を表示したと理解することができるから、入学金支払い時にXらとYとの間で在学契約が成立したと認められる。

 また、在学契約は、主として準委任契約の性質を有する契約であるから、学生はいつでも在学契約を将来に向かって解除できるものであると解され、このような在学契約の特質にかんがみると、学生が在学契約を解除した場合には、授業料等を納付したにもかかわらず教育役務等反対債務の履行を受けていない部分があればその返還を受け、いまだ納付していない授業料等についてはその支払い義務を免れるものと解するのが相当である。

2 入学金

 入学金は、当該大学に入学し得る地位を取得することへの対価としての性格を有している。これに加えて大学は、学生が入学金を納付して在学契約を締結した以上、その学生が現実に入学するか否かにかかわらず、直ちに教育を実施するために必要な人的、物的設備を準備する義務を負っていることなどに照らせば、入学金の一部は、全体としての教育役務等の提供のうち、入学段階における人的物的設備の準備、事務手続き費用等、大学が学生を受け入れるために必要な準備行為の対価としての性質をも併せ有している。

 本件では、在学契約が成立したことにより、Yから、Y大学へ入学し得る地位の付与を受けているのであり、また、本件在学契約が解除された時点までに、YはすでにXらを受け入れるための具体的諸準備を行っていたと考えられる。したがって、XらはYから入学金に対応する反対給付の履行をすでに受けているということができるから、Xらが本件在学契約を解除したからといって、Yに対し、入学金の返還を請求することはできない。

3 前期授業料

 学生が在学契約を解除した場合には、授業料を納付していれば、教育役務等反対債務の履行を受けていない部分があればその返還を受けられる。Yの授業料不返還特約はこの本来返還すべき義務を免れしめるものであり、消費者契約法9条1号に該当する。

 在学契約はその性質上、学生の解除により大学が他の者から収入を得る機会を失うことがあり得ることも当然に予定しているものというべきであって、YはX1の入学辞退により他の者から収入を得る機会を失ったとしても、それを大学の被る損害として観念することはできない。

 また、大学は、入学辞退により定員割れが生じ得ることを踏まえたうえであらかじめ合格者の調整を図るべきであり、定員割れのリスクは大学において甘受すべきであるから、その予測が外れ、定員割れの事態が生じたとしても、それを学生の入学辞退による平均的な損害の内容になるということも認められない。したがって、本件不返還特約は消費者契約法9条1号により無効である。

4 結論

 X1の授業料85万円の返還の限度で認容し、X1のその余の請求およびX2の請求は理由がないから棄却する。



解説

解説中で番号がついている判例の詳細は、ページの最後にある参考判例に詳細が載っています。そのうち(1)〜(5)(7)(8)(11)〜(15)は消費者が敗訴した判決。

1 在学契約の成立時期について

 学生が入学手続きを完了したときとする点で一致しているが、構成が異なっている。入学手続きが申し込みで、大学が異議を述べないことにより黙示に承諾があったとする判決(本判決、参考判例(6)(9)(12)(14))と、合格発表によって一身専属的な予約完結権を合格者が取得し、入学手続きをすることにより予約完結権が行使されて在学契約が成立するという判決(判例(8)(10)(13)(14))がある。

2 入学金の法的性質について

 入学できる地位を取得した対価とのみいう判決(判例(7)(8)(9)(11)(12)(14)(15))と在学契約ないしその予約上の地位の取得についての対価(判例(10))、本判決のように、これにプラスして大学が学生を受け入れるために必要な準備行為の対価というもの(判例(6)(7)(13))に分かれる。そのため、入学できる地位の取得により入学金の返還が認められないという判例がほとんどであるが(判例(6)(9)(10)(11)(15))、判例(6)は、入学金は、学生としての地位を取得するについて、一括して支払われるべき金銭であり、学生としての身分を取得したことにより契約上の義務の履行を受けたことになり、入学金相当額の返還は請求できないが、4月1日以前に辞退した者については入学金の返還も認めている。

3 消費者契約法施行前の事例

 法施行前の事例を扱う判例(1)〜(5)(7)(8)(11)〜(15)は、いずれも不返還特約を全面的に有効としている(なお、判例(9)は民法90条違反ではないことは認める)。判例(11)では、公募推薦入学であることも強調されている。消費者契約法施行前の事例については、有効という立場で固まりつつある。

4 消費者契約法施行後の事例

 法施行後の事例を扱う(6)(9)(10)および本判決の四つは、いずれも消費者契約法9条1号の適用を肯定しているが、授業料についてのみ不返還特約を無効とした判例(9)(10)および本判決に対して、判例(6)は4月1日までに入学辞退の意思表示をした者については入学金の返還まで命じている(2を参照)。平均的損害の主張立証責任は事業者にあるという判決(判例(6))と、消費者が立証責任を負うという判決(判例(9)(10)および本判決) とに分かれる。判例(6)は異例であり、本判決のような立場で固まっていくものと推測される。



 参考判例

  1.  (1)大阪簡判昭和38年8月5日判決 『判例時報』352号71ページ
  2.  (2)東京地判昭和46年4月21日判決 『判例時報』642号42ページ
  3.  (3)大阪地判岸和田支判平成8年2月16日
  4.  (4)大阪高判平成8年11月7日判決 (3の控訴審)
  5.  (5)最判平成9年3月20日判決 (4の上告審。3〜5は『法律論叢』70巻4号147ページによる)
  6.  (6)京都地判平成15年7月16日判決 『判例時報』1825号46ページ
  7.  (7)大阪地方裁判所平成15年9月19日判決
  8.  (8)大阪地方裁判所平成15年10月9日判決
  9.  (9)大阪地方裁判所15年10月16日判決
  10.  (10)東京地方裁判所平成15年10月23日判決
  11.  (11)大阪地方裁判所平成15年10月23日判決
  12.  (12)大阪地方裁判所平成15年10月27日判決
  13.  (13)大阪高判平15年10月28日判決
  14.  (14)大阪地方裁判所平成15年11月6日判決
  15.  (15)大阪地方裁判所平成15年11月11日判決

(出典が記載されていないものは、最高裁HPによる)



消費者問題の判例集トップページへ

ページトップへ