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[2004年3月:公表]

在宅ワーク付き医療事務通信講座にかかる教材販売契約の錯誤無効

 本件は、業務提供誘引販売取引の規制前の事例である。主婦が、教材を購入すれば在宅ワークの業者から分割金の支払いをなし得る程度の在宅ワークの提供を受けられると誤信して、クレジット会社の立替払契約を利用して医療事務速習講座の教材を契約したものであるとして、主婦の動機の錯誤を認め、クレジット会社からの立替金請求が認められなかった事例である。(津地方裁判所平成15年4月2日判決)

  • 消費者法ニュース56号158ページ
  • 控訴後確定

事件の概要

X:原告 (信販会社)
Y:被告 (消費者)
A:販売業者
B:業務提供会社
C:Aの担当者

 Yは、平成11年11月ごろ、パソコンによる文書入力等に関する在宅ワーク募集の折り込みチラシを見てAに電話をかけた。Aの担当者Cから文書入力の仕事は誰でもできる簡単なものであって、Bに登録して仕事をすれば1日1時間で月5万円くらいの収入になり、さらに医療事務の勉強をしてその仕事をすると収入が増えるが、仕事をするには本件教材を買い受けるためにローンを組む必要がある。しかし、収入によってローンは返済できるし、いつでも解約できるとの勧誘を受け、そのために契約を締結するものであると述べて平成11年11月24日に、本件売買契約を締結したものである(医療事務の教材、割賦販売価格41万8320円、月額支払額8700円)。ところが、Bから文書入力の仕事をもらうためには、1カ月に2回行われるテストを受けてCランク以上でなければならず、Yはテストを受けてもEランクになるなどしてなかなか仕事をもらえなかったため、5カ月以上もたってからCに申し出て、他の業者から文書入力の仕事を提供してもらった。しかし、提出期限について事前に話はなかったにもかかわらず「仕事が遅いからこれからは仕事を紹介できない」といわれ、「それなら解約する」というと、「ローンが発生しているから解約できない」とか「解約金がいる」などといわれた。そこでYは、AおよびBを共同被告として共同不法行為による損害賠償請求権に基づき支払済みの分割金の返還等を求めて提訴したが、これに対して、Xが別訴として立替金請求訴訟(本件訴訟)を提起した。両事件は一旦併合されたが、その後、Yが最終段階で損害賠償請求訴訟を取り下げたので、本件事件のみについて判決が出された経緯がある。

 本件では、Yは、本件売買契約は電話勧誘行為による指定商品の販売に当たるが契約書面の交付がないのでいまだにクーリング・オフができる、契約を締結した動機に錯誤があったのであるから契約は無効である、などと主張して争った。

 クレジット会社は、錯誤無効には当たらない、確認電話の際に在宅ワークの特約があることを告げなかった以上は、支払停止の抗弁の主張をすることは信義則に反するものであり許されない、などとして争った。



理由

(1)特定商取引法の適用について
 Aは在宅ワーク募集の折り込みチラシの広告によりYに電話をかけさせ、その電話における勧誘によりYと本件契約を郵送によって締結させたものであるから、電話勧誘行為による指定商品の販売に当たるものとして、Yは本件売買契約をクーリング・オフできるというべきである。

(2)動機の錯誤無効
 Yは、Cから文書入力の仕事は誰でもできる簡単なものであって、Bに登録すれば1日1時間で月5万円くらいの収入になる。さらに医療事務の勉強をしてその仕事をすると収入が増えるが、仕事をするには本件教材を買い受けるためにローンを組む必要があるものの、収入によってローンは返済できるし、いつでも解約できるとの勧誘を受け、そのために契約を締結するものであると述べて本件売買契約を締結したものである。ところが、Bから仕事をもらうためには、1カ月に2回行われるテストを受けCランク以上でなければならなかったが、Yはテストを受けてもEランクになるなどしてなかなか仕事をもらえなかった。5カ月以上もたってからCに申し出て他の業者から文書入力の仕事を提供してもらったものの、提出期限について事前に話はなかったにもかかわらず、「仕事が遅いからこれからは仕事を紹介できない」といわれ、「それなら解約する」というと「ローンが発生しているから解約できない」とか、「解約金がいる」などといわれたことが認められる。そうすると、Yは、本件売買契約の締結当時、本件売買契約を締結すればBから分割金の支払いをなし得る程度の在宅ワークの提供を受けられると誤信しており、Aに対し、そのために締結するものであることを述べたものというべきである。

(3)信義則違反
 YはX担当者から意思確認の電話を受けた際に、在宅ワークの斡旋等が関係する契約であることや、Aから説明を受けた内容について言及していないことが認められる。Xは、それにもかかわらずYがXに対して動機の錯誤の抗弁を主張することは信義則に反して許されない旨主張する。しかし、Xの担当者は意思確認の電話の際に、契約金額とYの住所、生年月日等は確認したものの、それ以上には契約内容についてなどまったく確認していないことが認められる。それにもかかわらずYのほうから積極的に在宅ワークの斡旋等が関係する契約であるとか、Aから説明を受けた内容についてX担当者に告げなければならない義務があるものではなく、そのような話をしていないからといってXに対して動機の錯誤の抗弁を主張することが信義則に反して許されないというべきではない。



解説

 本件は、特定商取引法で業務提供誘引販売取引に関する規制がなされる以前に、求人広告チラシで「在宅ワーク」の求人募集を行い、応募してきた消費者に対して、「在宅ワークを提供するので、そこから得られる収入で十分支払いをすることができ、技術も身に着く」と説明して、医療事務のための学習教材の売買契約を締結させたという事案である。

 業務提供誘引販売の規制以後に締結された契約であれば、業務提供誘引販売取引の要件を満たすことは明らかであるから、クレジット会社に対する抗弁の対抗は十分可能な事案であったと思われる。また、交付された契約書面に業務の内容、対価、提供する量などの記述がなされていないなどの不備があれば、クーリング・オフも可能なケースであったといえる。しかし、業務提供誘引販売規制以前の契約であったため、クレジット会社は、本件教材販売契約には、支払停止の抗弁はできないものとして争った。規制以前の同種の契約では、類似の紛争になる場合が多く、クレジット会社などの主な反論は、「在宅ワークの契約と商品等の売買契約はまったく別個のものである」というものである。本件での、クレジット会社の主張として注目すべきものは、「消費者に対する確認の電話の際に、消費者が在宅ワークの特約があることを述べなかったことから、支払停止の抗弁の対抗を主張することは信義則に反するもので許されない」とする主張である。最近では、クレジット会社が確認電話を偏重して類似の反論をするケースが少なくない。

 判決では、第1に、求人チラシで電話をかけさせて勧誘する方法であることから、電話勧誘販売であるので特定商取引法の適用があるとした点が、電話勧誘販売の定義に関する事例として参考になる。ただし、消費者の主張する契約書面が交付されなかったという事実はないとしてクーリング・オフの主張は認めなかった。第2に、在宅ワークに関する説明が事実とは異なっていたこと、そのために誤信して契約を締結した部分については、動機の錯誤に当たると判断し、動機が契約の相手方に対して明示されていたとして錯誤の無効を認めた。第3として、確認電話に対して消費者が在宅ワークの特約について触れなかった点についての判断も適切なものであり、参考になる。

(注)なお控訴審ではYは、Yからの電話確認に対してXが契約した動機を説明しなかったことが不法行為に当たると主張したが認められず、ほぼ原審と同じ判断が下されている。



参考判例

  1. (1)東京地判平成14年7月24日、その判決の解説は、2003年7月掲載文
  2. (2)名古屋地判平成14年6月14日、その判決の解説は、2002年11月掲載文


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