[本文へ] 消費生活・消費者問題に関する事例や対処方法を紹介しています。

現在の位置 : トップページ > 相談事例・判例 > 消費者問題の判例集 > イシガキダイによる食中毒と製造物責任

[2004年2月:公表]

イシガキダイによる食中毒と製造物責任

 本件は、割烹料亭で調理されたイシガキダイ料理を食べ、シガテラ毒素を原因とする食中毒が発生した場合に、イシガキダイ料理は、製造物責任法にいう加工に当たるとして、料亭経営者らの責任が認められた事案である。(東京地方裁判所平成14年12月13日判決)

  • 判例タイムズ1109号285ページ、判例時報1805号14ページ
  • 控訴

事件の概要

X1〜X8:原告(イシガキダイ料理を食べた消費者)
Y:被告 (割烹料亭経営者)
A:イシガキダイ仲卸業者

 Xらは、平成11年8月13日Yの経営する割烹料亭を訪れ、Yが調理して提供したイシガキダイのアライ、兜の塩焼き等の料理(以下「本件料理」という)を食したが、その食材であったイシガキダイに含まれていたシガテラ毒素を原因とする食中毒(以下「本件食中毒」という)に罹患し、下痢、嘔吐、発疹、皮膚掻痒症、鳥肌、発作、痺れ、冷感亢進、体のだるさ等の症状を生じた。シガテラ毒素を原因とする食中毒は、シガトキシンとその関連毒によって起こるもので、海藻の表面に付着生息する鞭毛藻により生産される毒が食物連鎖により魚に蓄積毒化され、それをヒトが摂取することによって生じるものといわれている。

 Xらは、本件食中毒は、Yがイシガキダイを調理した本件料理をXらに提供し、これを食させた結果発生したもので、Yが業として「加工」し、Xらに食させた本件料理(製造物)には、シガテラ毒素を含んでいたという「欠陥」を有していたため、Xらの身体または財産が侵害されたといえるので、Yは製造物責任法3条に基づく損害賠償責任があるなどとし、Yに対し製造物責任などに基づく損害賠償請求訴訟を提起した。

 これに対して、Yは、製造物責任を課すためには、製品を製造・加工したことにより新たな危険性が創出され、または高められたことが必要であり、本件イシガキダイに含まれていたシガテラ毒素は、Yの調理によるものではなく、もともとイシガキダイに含まれていたものであり、同毒素を識別することもできなかったし、調理方法でこれを排除することもできなかったから、Yの調理方法は、法のいう「加工」には当たらない、などとして製造物責任を争った。また、Yは、シガテラ毒素は、沖縄県を中心に多数報告されているが、千葉県勝浦市付近での報告例はないこと、シガテラ毒魚としてイシガキダイを挙げた文献は見当たらないこと、代表的なシガテラ毒魚以外の魚で毒化したものを判別することは不可能ないし著しく困難なこと、有効な予防対策もないこと、Yの調理方法等には、一般的な中毒を防止する十全の配慮がなされていたことなどから、科学技術の最高水準の知見をもってしても本件イシガキダイがシガテラ毒素を有していることを発見、認識することは不可能であったとして、開発危険の抗弁を主張した。



理由

1 法2条にいう「製造又は加工」とは、原材料に人の手を加えることによって、新たな物品をつくり(「製造」)、またはその本質は保持させつつ新しい属性ないし価値を付加する(「加工」)ことをいうものと解するのが相当である。食品加工について、より具体的にいえば、原材料に加熱、味付けなどを行ってこれに新しい属性ないし価値を付加したといえるほどに人の手が加えられていれば、法にいう「加工」に該当するというべきである。

 Yが本件イシガキダイを調理したことが法にいう「加工」に該当するかを検討すると、Yは本件イシガキダイを仲卸業者Aから仕入れ、店内の水槽に放しておいた後、これをさばき、内臓を除去して3枚におろし、身、腹す、兜、仲骨に分けて、身の部分を氷水で締めてアライにしてXらに提供した他、兜や仲骨の部分を塩焼きにし、本件料理としてXらに提供したことが認められる。そうすると、Yは、本件イシガキダイという食材に手を加え、客に料理として提供できる程度に調理したものといえるからYの調理行為は原材料である本件イシガキダイに人の手を加えて新しい属性ないし価値を加えたものとして、法にいう「加工」に該当する。

2 開発危険の抗弁について、法4条の「科学又は技術に関する知見」とは、科学技術に関する諸学問の成果を踏まえて、当該製造物の欠陥の有無を判断するに当たり影響を受ける程度に確立された知識のすべてをいい、それは、特定の者が有するものではなく客観的に社会に存在する知識の総体を指すものであって、当該製造物をその製造業者等が引き渡した当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準がその判断基準とされるものとするのが相当である。そして、製造業者等は、このような最高水準の知識をもってしても、なお当該製造物の欠陥を認識することができなかったことを証明して、初めて免責されると解するのが相当である。

 本件において上記証明がなされているか検討する。シガテラ中毒は沖縄や奄美諸島では相当古くから相当数発生しているとされ、文献にも掲載されていること、千葉県勝浦沖でとれたヒラマサを原因魚種とする発症例があり、文献により知ることができること、イシガキダイを原因魚種としたシガテラ中毒の発症例も複数あり、文献にも掲載、市販され、保健所等において一般に閲覧することも可能であることなどの事実が認められる。これらの既存の知識を総合すれば、本件料理がシガテラ毒素を含有することを認識することがまったく不可能であったとはいえないし、これらの知識を入手することが不可能であったとは認めることはできない。そもそも既存の文献を調査すれば判明するような事項については開発危険の抗弁が認められる余地はない。



解説

1 製造物責任法(以下法という)2条1項の「加工」とは何かが議論されてきた。「加工」とは、物品に手を加えてその本質を維持しつつこれに新しい属性または価値を付加することであり、一般的には煮る、焼くなどの過熱、あるいは調味、塩漬け、薫製などの味付け、粉挽きなどは加工だが、単なる切断、あるいは冷凍、乾燥などは基本的には加工には当たらないとする考え方も有力であり、一般的に、調理は「加工」に当たると解されていた。

 本件は、割烹料亭でイシガキダイの料理を食した客らがシガテラ毒素を原因とする食中毒に罹患したという事案で、イシガキダイの調理が法の「加工」概念に該当するかが争われたものである。Yは、法は絶対責任、結果責任を認めるものではないとして、前記のとおりイシガキダイの調理は「加工」には当たらないと主張した。本判決は原材料にもともと食中毒の原因毒素が含まれていた場合の調理が、「加工」に当たるかを、真正面から論じこれを肯定したものである。

 本判決は、まず、法は過失責任主義とは異なった新たな理念に基づくものであり、その立法趣旨は科学的、技術的に高度化した製品事故における過失の立証は困難であるところから、被害者救済の見地から立証負担を軽減したものである。法は、危険責任の法理、報償責任の法理および信頼責任の法理を背景として、公平の観点から従来の過失責任ではなく、製造物の欠陥によって損害が発生した場合に損害を製造業者に負担させ、被害者の救済を図ったものであるとし、そのうえで、「製造又は加工」を上記のとおり解釈し、本件イシガキダイの調理が、法にいう「加工」に当たると判断したものである。Yがイシガキダイの食中毒の毒素を発見しえたか、除去できたかといった観点からではなく、出された料理が毒素を有していたという客観的性状そのものからYの責任を認めたものであり、被害者の救済を目的とする法の趣旨にかなつた判断であるということができよう。

2 また、本件ではYの開発危険の抗弁が成立するかが争点とされ、本判決はこの点についても同抗弁が設けられた意義、立法趣旨、判断基準を真正面から判断した点でも意義がある。同抗弁については、法の立法の段階で、このような抗弁を認めるとその判断基準を緩め、業界基準などとされると過失責任と変わらなくなるから設けるべきではない、といった議論があったところである。「引き渡した当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準がその判断基準とされる」ことを明らかにしたもので、この点でも意義がある。



参考判例

  1. (1)大阪地方裁判所堺支部平成11年9月10日判例タイムズ1025号85ページ (学校給食O−157食中毒死事件)
  2. (2)仙台地方裁判所平成11年2月25日判例集未登載 (生うに食中毒事件)
  3. (3)東京地方裁判所平成13年2月28日判例タイムズ1068号181ページ (輸入瓶詰オリーブ食中毒事件)


消費者問題の判例集トップページへ

ページトップへ