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[2004年1月:公表]

消火器薬剤の訪問販売のクーリング・オフと適用除外

 本件は、自動車を販売する会社が訪問勧誘により消火器の点検整備と薬剤の購入契約を締結した場合について、この消火器の充填薬剤の購入契約は、適用除外に該当しないとして、クーリング・オフを有効と認めた事案である。(大阪高等裁判所平成15年7月30日判決)

  • 判例集未登載
  • 上告却下

事件の概要

X:原告(被控訴人)
Y:被告(控訴人)
A:Xの従業員

  Yは、種々の事業所等に、出入り業者を装う等の方法で訪問し、消火器の点検および薬剤充填の業務を行っている。Yは、平成14年10月末ごろ、女性従業員にXの事務所に電話させ、「消火器のZ(Xと従来から取引のあった大手業者の名称、以下同様)です。いつもお世話になっております。消火器の充填の期日が過ぎております。これから伺いますので、いつごろがよろしいでしょうか」とXの出入り業者を装って電話をさせ、電話を受けたXの従業員Aは、その電話を以前からXと取引のある業者と誤信し「期限が過ぎているようでしたら来てください」と答えた。

 そこでYが雇用する男性2人が、同年11月1日ごろ、Xの事務所を訪れ、上記のように錯誤に陥っているAに「Zの消火器ですが、引き取りに来ました」と言い、本件消火器を運び出し、Aが上記の錯誤に陥っていることを知りながら、Yが従前の取引業者でないことを告げず、その錯誤を利用して「引き上げておきましたので、ここにサインをしてください」と告げて、以前からの取引業者よりも非常に高額の作業費等を計上した消防用設備点検作業契約書に署名させた。

 これらの事実に基づいて、Xは、本件契約は詐欺に該当するので取り消す、また、Yが特定商取引法4条、5条に規定する書面をXに交付していないことから、Xは平成14年15月10日、Yに送達された本訴状をもって、特定商取引法9条に基づきクーリング・オフの意思表示をしたと主張し、引き上げた消火器38本の返還を求め、強制執行が功を奏しないときには消火器の時価相当額の90万円を支払えとの判決を求めて訴訟を提起した。原審判決は、Xの請求を認めた(ただし、消火器の時価については45万6000円の範囲で認めた)ため、Yが控訴した。本件は控訴審の判決である。

 控訴審の主な争点は、本件取引が、特定商取引法の適用除外規定「売買契約または役務提供契約で、その申し込みをした者が営業のためもしくは営業として締結するものまたは購入者もしくは役務の提供を受ける者が営業のためもしくは営業として締結するものに係る販売または役務の提供」に該当するかどうかであった。



理由

1 クーリング・オフについて

 特定商取引法は昭和63年改正前は訪問販売等における契約の申し込みの撤回等についての適用を除外する契約として、「売買契約でその申し込みをした者または購入者のために商行為となるものに係る販売」と規定していたのであるが、前記改正によって「売買契約または役務提供契約で、その申し込みをした者が営業のためもしくは営業として締結するものまたは購入者もしくは役務の提供を受ける者が営業のためもしくは営業として締結するものに係る販売または役務の提供」となったものである。

 これによれば、前記改正の趣旨は、商行為に該当する販売または役務の提供であっても、申し込みをした者、購入者もしくは役務の提供を受ける者にとって、営業のためもしくは営業として締結するものでない販売または役務の提供は、除外事由にならない趣旨であることが自明である。

 そこで、本件についてみるに、Xは、各種自動車の販売、修理およびこれに付随するサービス等を業とする会社であって、消火器を営業の対象とする会社ではないから、消火器薬剤充填整備、点検作業等の実施契約が営業のためもしくは営業として締結されたということはできない。消防法上、Xの事務所等に消火器を設備することが必要とされているとしても、これは消防法の目的から要求されるものであって、これによって本件取引を営業のためもしくは営業として締結されたものということはできない。

2 詐欺による取り消しについて

 Yは、種々の事業所等に、出入り業者を装う等の方法で訪問し、消火器点検および薬剤充填の業務を行っているものであるが、平成14年10月末ごろ、女性従業員にXの事務所に電話させ、「消火器のZです。いつもお世話になっております。消火器の充填の期日が過ぎております。これから伺いますので、いつごろがよろしいでしょうか」とXの出入り業者を装って電話をさせたこと、電話を受けたXの従業員Aは、その電話を以前からXと取引のある業者と誤信し、「期限が過ぎているようでしたら来てください」と答えたこと、そこでYが雇用する男性2人が、同年11月1日ごろ、Xの事務所を訪れ、上記のように錯誤に陥っているAに「Zの消火器ですが、引き取りに来ました」と言い、本件消火器を運び出し、Aが上記の錯誤に陥っていることを知りながら、Yが従前の取引業者でないことを告げず、その錯誤を利用して「引き上げておきましたので、ここにサインをしてください」と告げて、以前からの取引業者よりも非常に高額の作業費等を計上の消防用設備点検作業契約書に署名させたことを認めることができるが、これは詐欺に該当するということができる。

 そこで、Xが、本件取引を詐欺により取り消す旨の意思表示をしたことは当裁判所に顕著である。してみれば、本件取引は、特定商取引法によって申し込みの撤回が認められないとしても、その効力を失ったものである。



解説

 訪問販売業者の中には、自営業者や中小企業を狙って販売するケースが増加している。事業者の狙いは、特定商取引法の適用除外であるからクーリング・オフの適用はないと反論をして、契約の解消を拒絶しようとするものである。

 本件のように、民法上の詐欺などに該当するケースであれば、事業者でも一般消費者でも適用されるものなので、購入者を救済することは可能である。しかし、民法上の詐欺や錯誤などによる救済の場合には、詐欺や錯誤に該当するかどうかをめぐって事業者と対立することになりがちで、簡便な救済方法とはいえない。

 そこで、特定商取引法に定める訪問販売に該当するかどうか、具体的にはクーリング・オフが認められるかどうかが迅速な被害の救済のためには大きなポイントとなる。

 訪問販売に関してクーリング・オフ制度を定めた趣旨は、取引の対象である商品やサービスにおいて同種の取引について素人である購入者を保護しようとするものである。このような基本的視点からすれば、自動車の販売等を業とする事業者であっても、消火器に関する取引については素人であり、専門知識や事業者としての経験を積んでいるわけではないのであって、適用除外には該当しないと考えるのが合理的であるといえよう。

 本判決は特定商取引法の適用除外規定「営業のためもしくは営業として締結するもの」について、高等裁判所レベルで判断を示した初の判決であり、先例的意味を持つ。今後の消費生活相談業務にも参考となる事例である。



参考判例

  1. (1)神戸地方裁判所平成15年3月4日判決 判例集未登載(本件の原審判決)
  2. (2)越谷簡易裁判所平成8年1月22日判決 消費者法ニュース27号39ページ(個人営業の理容店の訪問販売による多機能電話機の売買契約についてクーリング・オフを有効とした事例)


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