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[2003年11月:公表]

外国為替証拠金取引と不法行為責任

 本件は、外国為替証拠金取引について、仲裁契約の成立を否定したうえで、説明内容の重要部分が虚偽および誇大であるとして不法行為の成立を認め、損害額全額と弁護士費用を認容した事例である。(札幌地方裁判所平成15年5月16日判決)

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事件の概要

X:原告(消費者)
Y:被告(先物取引や為替取引に係る売買、取次などを行う会社)
A:オーストラリアで外国為替証拠金取引を営業としている会社

 Xは、昭和18年生まれの男性で、商業高校卒業後、家業の製本業を営んでいたが平成13年春には廃業し、無職となった。Xは、Y従業員の勧誘により、Yの「B」と称する外国為替証拠金取引を行い、その取引証拠金として、平成13年8月16日から9月14日までの間に8回にわたりYに合計2700万円を交付した。Yによると、Xは、平成14年3月8日までの間に20回にわたって円と米ドルの為替証拠金取引を行い、全額損失となった。

 Xは、不法行為に基づく損害賠償請求(その理由は、賭博行為、相対取引の利益相反、スワップ金利が架空であること、適合性原則違反、A社に関する虚偽説明、仕組みやリスクの説明義務違反、断定的判断の提供、一任取引、両建て、無断売買、解約拒否・返還遅延など多岐にわたる)、不当利得返還請求(その根拠は、公序良俗違反、詐欺取消、消費者契約法の不実告知による取消)により上記2700万円と弁護士費用270万円合計2970万円の支払いを求めて訴えを提起した。

 Yは、契約書の仲裁条項(社団法人国際商事仲裁協会における仲裁によって解決する)により、訴えの却下を求めるとともに、本案については違法性を争った。仲裁合意が有効の場合には、合意した当事者は紛争を仲裁手続によって解決すべきことになり、裁判を起こす権利を喪失するという重大な結果をもたらすことになる。



理由

 本判決は、過失相殺をしないで、Xの損害賠償請求を全部認容している。

 まず、仲裁合意については、XとYとの間の紛争に関して訴えの提起ができなくなることが記載内容から明確でないうえに、担当者からその説明もなされていないこと、一般に仲裁の意義については知識がないことなどから、その成立を否定した。

 次に、損害賠償請求については、次の点などからこれを認めた。

 まず、Yは、顧客の注文はYからAに取り次がれ、Aがインターバンク市場(主として銀行を取引の参加者とし、通貨の交換取引をする市場をいう)で取引すること、Aはオーストラリア認可商業銀行で顧客の資産は完全分離保管制度が適用されるため安全である、などと説明している。しかし、AはYとの取引をインターバンク市場に取り次いでいないのでこの点の説明は虚偽であり、Yの勧誘している取引は賭博行為に過ぎない。

 Aが顧客の依頼に応じて外国為替取引をしていないことは前記のとおりであり、Yはそのことを知っていたと推認されるから、YのXに対する「B」についての説明は虚偽の事実の説明であったことになり、このような説明はXに対する不法行為に該当する。

 また、「オーストラリア認可商業銀行」および「完全分離保管制度」との説明については、Aはオーストラリアにおける証券業のライセンスはあるもののオーストラリアの銀行法にもとづく銀行ではなく、日本においてAを「オーストラリア認可商業銀行」と説明することは適切な説明とはいえない。さらに、完全分離保管制度と称するものが何であるのかの具体的内容も明らかでなく、安全であるとの説明も適当ではないので、虚偽とはいえないまでもA社を過大に信用させる誇大な説明である。これらの両者は、相まって、説明を受けた者をしてAを過大に信用させることになる。こうした説明は、Xに対する不法行為に該当する。



解説

 為替証拠金取引は、平成10年の外国為替及び外国貿易法(外為法)改正で為替取引が自由化されたことによって考え出された。取引業者に一定の委託証拠金を預け、その10倍ないし15倍程度の為替取引を行うというものである。金融先物取引と似ているが、先物取引は先物取引市場において取引され、その取引制度は統一的に規制されている。これに対して外国為替証拠金取引は、取引業者と顧客の相対取引という形態をとる。そこで、取引の仕組みは業者によってさまざまである。例えば、決済期限(限月)を設けている業者もあれば設けていない業者もある。最低取引単位や証拠金の額も、業者によって様々である。また、基本的な仕組みは業者の信用の供与を受けて行うことからすると、むしろ株式の信用取引に類似している。つまり、株式の信用取引は信用の供与を受けて株式の取引を行うのに対して、外国為替証拠金取引は信用の供与を受けて外国為替の取引を行うのである。

 しかし、株式の信用取引は証券取引法の規制を受けるが、外国為替証拠金取引は直接規制する法律(取締法規・業者ルール)がまだないので、取引形態が統一されていない。商品先物取引業者、証券取引業者、商社などから業者が参入している他、独立系の業者も多く、トラブルが多発してきている。民法、消費者契約法といった民事ルールが適用されるのは当然であり、不法行為に基づく損害賠償請求や、不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の故意の不告知など消費者契約法による取消を活用して解決に当たることになる。なお、金融商品販売法の適用に関しては問題がある。金融庁は、ホームページで、場合によっては金融商品販売法の適用がありうるとの見解を示したが、具体的な適用範囲は必ずしも明確ではない。

 Yは、平成12年4月に札幌支店を開設し、為替証拠金取引の勧誘を始めた。翌年から地元弁護士に対して相談が寄せられるようになり、多数の訴訟が提起されている。本判決は、平成15年5月9日判決(被害者全面勝訴・過失相殺なし)に続く2件目の判決である。

 5月9日判決は、不適格者への勧誘と説明義務違反を認め、説明義務の内容としては取引の危険性、取引内容や付随する重要事項(取引当事者の関係、相対取引であること、スワップ金利の意味、追加証拠金が必要となる場合、計算方法など)について十分な説明と顧客の理解度の確認を含むとしている。この判断は、ワラント取引を始めとする証券取引の判例法理と同様であり、従来の判例法理と整合的であると言える。この意味での説明義務は高度であって、顧客が理解していることを確認することまで含まれる。5月9日判決は、この意味での説明義務違反と不適格者への勧誘を認定し、違法としたものである。

 これに対して本判決は、A社がインターバンク市場で為替取引を行っていない点に着目し、そのような場合にはYの勧誘している取引は外国為替相場における通貨交換価格を指標とする賭博行為に過ぎないし、スワップ金利の発生や取次ぎ手数料徴収の根拠を欠くことを重視しているところに特色がある。

このように、適合性原則違反や説明義務違反よりもYの行っている取引の構造の問題点を重視する判断は、本件判決後の札幌地裁平成15年6月27日判決にも受け継がれた。この判決も、被害者全面勝訴で過失相殺はなされていない。取引の構造的問題点を重視したことが大きいと思われるが、この種の取引における過失相殺の傾向として注目される。

 本件は、為替証拠金取引の早い時期の判決であると同時に、消費者契約における仲裁合意の効力の問題もあり、注目されていた。仲裁合意が有効とされると、消費者は裁判を受ける権利を放棄したものとされ、訴えは却下される。このような重大な問題があるところから、契約書などに仲裁合意の条項がある場合、消費者保護の問題をどう考えるかが新仲裁法の検討に際して大きな争点となった。その結果、消費者仲裁については平成15年8月に公布された仲裁法附則3条によって、幅広く解除できることとなったので、併せて参照されたい。



参考判例

  1. (1)札幌地裁平成15年5月9日判決(判例集未登載)
  2. (2)札幌地裁平成15年6月27日判決(判例集未登載)


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