[本文へ] 消費生活・消費者問題に関する事例や対処方法を紹介しています。

現在の位置 : トップページ > 相談事例・判例 > 消費者問題の判例集 > 証券会社による誤情報提供の責任

[2003年9月:公表]

証券会社による誤情報提供の責任

 本件は、証券会社の外務員が顧客に対して誤情報を提供し、顧客がその情報によって株式を購入した結果生じた損害について、証券会社が賠償義務を負うとした事例である。(大阪地方裁判所平成13年4月11日判決)

  • 金融法務事情1627号53ページ
  • 控訴(後和解)

事件の概要

X:原告(消費者)
Y:被告(証券会社)
A:YのX担当外務員

 Xは、かねてからYにおいて株式等の取引を行い、平成11年9月から同12年3月の間に、B株式会社の株式を5回買い付け、短期間で売却していた。

 Xは、たまたま同年4月3日になり、B社のアメリカ法人の決算発表が4月5日にあるとのニュース報道を聞き、B社の株式が決算発表後に値上がりする傾向があることを思い出した。そこでXは、その発表直前にB社株を買い付けることを決意し、Aに対してそれらの事実を詳しく告げたうえで、B社の決算発表日を問い合わせた。

 Aは、部下に指示してY本社調査部に問い合わせて調査し、同社の決算発表は同月5日であるとの情報を得た。そこでこの情報をXに提供したことから、Xは同月3日にB社の株式1株を5554万3369円で購入した。

 ところが、その後同月5日はB社のアメリカ法人の決算発表日であり、B社の決算発表日とは異なることが判明した。

 XはYと協議したが、結局Yから対応できないとの回答がなされた。そこでXは、同月7日、同株式を4222万9638円で売却し、これにより取引差損1331万3731円が発生した。Xは、不法行為(使用者責任)あるいは債務不履行に基づき、前記取引差損相当額と弁護士費用133万円合計1464万3731円の損害賠償を求めて提訴した。



理由

 本判決は、以下のような理由でXの請求を全額認容した。

1. 注意義務違反について

 「XがAに決算発表直前に株式を購入すると説明していたことから、Aには同人の提供する情報によってはXが株式を購入することが具体的に予想されたのであるから、情報の提供に際しては、善良な管理者としての注意を払い、正確な情報を伝達すべき義務がある。本件において、正確な決算発表日を調査することは可能であったのであるから、これを怠り、誤った情報を伝えたことにつき不法行為が成立する。

2. 因果関係について

 Yは、AのXに対する情報の提供は株式買い付けの一動機に過ぎないし、取引差損の発生はいわゆるネット関連株のバブルがはじけ、株価が下落したことによるものであるから因果関係がないと主張する。しかし、Xの従前のB社株式についての取引の状況、Aに問合せをした経緯、同年に行なわれた決算発表後のB社株式の値動き(実際に決算発表の翌日から10日間連続して値上がりしている)などの状況から、Aによる誤情報の提供と取引差損の発生との間には、相当因果関係が認められる。

3. 過失相殺について

Yは、B社は3月決算であり、決算発表が期末のわずか5日後である4月5日に行われるはずがないことはXにも容易にわかるはずであるとして過失相殺を主張する。しかし、XとYとに同様の過失があるのであれば、その程度は証券会社であるYのほうが重いと解されること、証券取引は投資家の自己責任において行なわれるものではあるが、企業の決算発表日に関する情報は個人投資家には入手困難であること等からして、過失相殺をするのは相当ではない。



解説

 証券会社の外務員の勧誘による証券取引について、不法行為や債務不履行に基づいて損害賠償請求する事案は、大変多い。しかし、それらの事案は、当該取引のリスクや仕組みを説明しないまま取引させるという説明義務違反の類型が多い。また、積極的にぎまん欺瞞的あるいは不当な勧誘がなされたという類型の場合も、断定的判断の提供の場合が多い。

 これに対して本判決の事例は、そもそもAがXに取引の勧誘を行なったものではないうえ、提供された情報が一般的には株式の値動きに影響を与えるかどうか必ずしも明確ではないと思われる企業の決算発表日である点において、特殊性がある。したがって、このような事案については、消費者契約法を適用しようとすると、勧誘・重要事項という要件が問題となる。

 そこで、本件のような事案については、消費者契約法施行後であっても、不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償請求という法律構成をとることになろう。その場合、取引の勧誘以外の場面においても、従前から取引を行なっている顧客に対して顧客の取引についての判断に影響する情報を提供する場合には、善良な管理者としての注意義務を負うのであり、本判決はこの点を明確にしているといえる。

 類似事例としては、株式分割について誤った情報を提供した信用取引の事例(参考判例(1))、変額保険の分野で既に運用実績がマイナスであったことを明らかにしないまま9%を前提として勧誘した事案(参考判例(2))、変額保険について運用実績がゼロないしマイナスであったのにこれを伝えず9%の運用が見込めるとしたばかりか想定した運用実績では解約返戻金・保険金で借入金全額の返済ができない場合があるのにこれをできると説明した事案(参考判例(3))、銀行融資を受けて行う相続税対策について貸付金利を実際の金利と異なる説明をした事案(参考判例(4))、などがある。

 本判決が過失相殺を行なっていない点は、妥当と考えられる。この点ついては、証券取引が本来投資家の自己責任において行なわれるものであることを根拠として、何らかの過失があるとする考え方も有り得る。しかし、個人投資家に入手困難な情報について、専門業者の提供する情報が誤っているかもしれないことを想定して自ら調査すべきであるという考え方は、非現実的である。



参考判例

  1. (1)東京地裁平成13年3月22日判決(証券取引被害判例セレクト17号258ページ)
  2. (2)東京地裁平成10年5月15日判決(判例時報1651号97ページ)
  3. (3)東京地裁平成10年9月25日判決(判例集未登載)
  4. (4)東京地裁平成13年2月7日判決(判例時報1757号104ページ)


消費者問題の判例集トップページへ

ページトップへ