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[2003年8月:公表]

公序良俗違反とされた絵画展示会商法

 本件は、絵画の展示会販売に関し、商道徳を逸脱した違法なもので公序良俗に反し無効であるとして、クレジット会社からの請求に対する支払い停止の抗弁を認めた事例である。(青森地方裁判所十和田支部平成13年12月27日判決)

  • 消費者法ニュース53号99ページ
  • 控訴

事件の概要

X:原告(クレジット会社)
Y:被告(消費者)
A:絵画販売業者
B:Aの従業員
C:Xの従業員

 Yは、平成11年10月10日に、大手スーパーの店舗において設置された個室においてAから絵画1点を代金82万9000円で購入し、立て替え手数料30万2750円、平成11年11月から16年10月まで1万8800円の分割払い(初回のみ2万2550円)とするクレジット契約をXとの間で締結した。その後、Yが支払わなかったためにXから提訴。Yはこれに対して、次のように主張して争った。

1. 本件契約には、以下の事情があり公序良俗違反で無効である。本件絵画はシルクスクリーン(版画)であって流通価格は14万6000円程度であるにもかかわらず、販売価格は高額であり、暴利行為である。従業員Bは量産可能であるにもかかわらず「この絵画はお客様の特別な絵です」などとこの世に一つしかないかのように欺もうした。BはYが月賦支払い額が1万5000円では支払うことができないと言ったのに対して「社員割引を適用するから月賦支払い額は1万円程度になる」などと説明してYを欺もうした。しかも、個室において午後3時から8時まで約5時間にわたり契約しなければ帰宅できないとまで思わせた結果なされたもので、消費者契約法4条3項の趣旨に照らしても、長時間にわたる不退去の勧誘行為であり違法である。

2. 本件絵画はシルクスクリーンであり流通価格は15万円程度であるのに、あたかも唯一の絵画であるかのように、また月賦支払い額が1万円程度であるかのように申し向けて欺もうし、その結果、Yは錯誤に陥って契約を締結したものであり、売買契約を詐欺により取り消す。

3. Yは、本件絵画の価値、価格について、Bの欺もうにより、実際よりも価値のあるもの、価格の高いものとの錯誤により契約を締結したのであるから、売買契約は錯誤により無効である。



理由

1. 本件絵画の作者は多作で、作品によっては300枚程度の原画が存在することがうかがえるとともに、本件絵画はショッピングセンターの特設会場で売買される程度のものであるから、本件絵画が特別な目的で制作された限定版であるとか、極めて少数の原画しか存在しないなどの事実はうかがえない。

 各証拠によれば本件シルクスクリーンの流通価格は、約19万円、約14万円、約20万円、約14万5000円とされている。また本件絵画の作者の作品で最高値で取引される作品の価格は約30万円とされている。これらの価格が業者間の取引価格(卸売り価格)としても、中間マージンや手数料は約30%ないし15%程度と認められる。

 仮に、本件絵画の卸売り価格が約30万円で中間マージン等も最高率の約30%とすれば、本件絵画の約83万円という価格は、卸業者から消費者までの間に4者近い仲買人が存在することになる(83万円÷30万円=2.77であり1.3の4乗が約2.86となる)。卸売り価格が14万5000円程度で中間マージン等が30%とすると6者近い仲買人が、15%とすると12者近い仲買人がいることとなる。

 本件絵画は希少価値のあるものとは思われず、卸売り業者から消費者の手に渡るまでの間に多数の仲買いが介在しマージン等で価格が大きく上昇すると考えるのは合理的でない。したがって、本件絵画は、通常の流通価格の少なくとも3倍から5.7倍近い価格でAからYに売り渡されたことになる。

 本件絵画の作者が愛好者の多いことで知られる版画家だとしても、特別な希少価値が存在するとは考えがたい本件絵画を前記のような価格で販売することは、著しく不相当な価格による販売であるといわざるをえない。

2. 一方、BはYへの勧誘において、本件絵画は「お客様用の特別の絵」と告げているが、必ずしもYが主張するような「唯一の絵」といったことを意味するものではなく、Yが本件絵画を希少な価値を有すると誤解したとしても、違法な勧誘とまでは評価できない。また、Yと同行した者は、家族と相談しないと決められないとしてその場での契約を拒んでおり、契約の内容を確認する時間的な暇がなかったとまでは認めがたい。むしろ、Yは本件絵画を欲しいと思っていたのであり、本件立て替え払い契約書を作成しているときには、本件絵画を買うことよりも早く帰宅したいと思っていたとしても、自ら望んで本件売買契約を締結したのだから、たとえYが契約に不慣れであったとしても、契約した金額がいくらであるかを全く確認していないという重大な落ち度があったことは否定できない。

3. しかし、Bは勧誘に際しYに対し本件絵画の価格について、具体的な資料を示しながら社員割引価格を適用する旨、月賦支払い額について実際の支払い額の半分近い額の1万円程度になる旨を告げたことが認められる。

 そうすると、Bは、Yに対して本件絵画の価格、月賦支払い額について重大な誤解を生じさせかねないような方法で勧誘していることとなる。Yの重大な落ち度を考え合わせても、本件絵画の価格などについてYに重大な誤解を生じさせるような方法を用いたBによる勧誘行為は極めて不相当な方法である。

4. YはBに対して月賦支払い額として1万5000円もの負担はできないと告げていたが、BがXの従業員Cにその旨を告げた形跡はない。割賦販売法は過剰与信を防止するよう努めることを割賦販売業者等に求めているところ、CはYの年収を確認したのみで、その支払い能力を確認した形跡はなく、Bに対しYの支払い能力を確認した形跡もない。そうすると、本件売買契約・本件立て替え払い契約は、過剰与信と評価すべきかどうかは別としても、極めて不相当な方法によって締結されたものと言わざるをえない。

5. 以上のとおり、本件絵画の価格は一般の流通価格の約3倍から約5.7倍と極めて不相当なものであること、その価格についてはYの落ち度も否定できないものの、BによりYが重大な誤解をしかねないような方法による勧誘を受けていたこと、立て替え払い契約の締結の際にもYに対して月賦支払い額の確認すらされていないとうかがわれることなどを考え合わせると、本件売買契約は、商道徳を逸脱した違法なものであって、公序良俗に反し無効であると考える。

 本件立て替え払い契約は、割賦購入あっせんであることに争いはなく、本件絵画は室内装飾品と認められるので割賦販売法に定められた指定商品である。

 以上のとおり、本件売買契約は公序良俗に反し無効であり、本件立て替え払い契約について、YはXに対して本件売買契約の無効を主張できるので、Yのその他の主張について判断するまでもなくXの請求には理由がない。



解説

 本件は絵画シルクスクリーンのいわゆる展示会販売に関する事例である。展示会場の個室において5時間もの長時間にわたって、支払えないので購入できないと述べている消費者に対して、通常の流通価格の約3倍から約5.7倍の価格のシルクスクリーンを、「希少価値がある」とか「社員割引にするから月々の支払い額が安くなる」などと虚偽の説明をして、高額な立替払い契約で締結させたという典型的な若者を狙った絵画の展示会商法に関する事例である。消費者は、事業者による価格の説明や商品の品質について虚偽があったと主張して、公序良俗違反による無効、詐欺による取消、錯誤による無効を主張して、クレジット会社からの立替金請求を拒否して争った。

 本件判決では、販売価格が市場価格の3倍から5.7倍であり暴利であること、月賦価格について説明も確認もせず、支払い能力を確認した形跡もないなど、極めて不相当な方法により締結されたものと言わざるを得ないことなどを総合して、公序良俗に反するものと認めて、クレジット会社からの請求を認めなかった。売買契約の価格、販売方法のさまざまな問題、クレジット契約において消費者の支払い能力を無視した与信の有り様などの問題点などを網羅的に拾い上げて、総合的に商道徳を逸脱すると捉えて、公序良俗違反に該当するとしたもので、相談業務におけるあっせんの際の参考になる事例である。

 消費者契約について公序良俗違反を認めた事例としては、原野商法に関して価格や販売方法が不当であることなどから公序良俗違反とした判決、ネズミ講について公序良俗違反とした判決などがある。



参考判例

  1. (1)名古屋地判昭和57年9月1日 判例時報1067号85ページ(原野商法について公序良俗違反とした事例)
  2. (2)長野地判昭和52年3月30日 判例時報849号33ページ(天下一家の会によるネズミ講について公序良俗違反とした事例)
  3. (3)盛岡簡判平成12年3月6日 判例集未登載(学習教材の訪問販売について業者の信義則違反を理由に請求金額を減額した事例)


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