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[2003年5月:公表]

先物取引被害で過失相殺なしとされた事例

 本件は、商品先物取引において、新規委託者保護義務違反、無断取引、過当取引、仕切拒否などが認められ、全体として違法であるとし、過失相殺も認定されなかった事例である。(大阪地方裁判所平成12年11月30日判決)

  • 判例時報1745号110ページ
  • 控訴

事件の概要

X:原告(消費者)
Y:商品先物取引業者
A:Yの従業員

 X(平成8年当時45歳)はバス会社に勤務し、所長代行を務める給与所得者で、商品先物取引の知識・経験はなかった。Xは、平成8年12月に、Aやその上司から電話・勤務先への訪問などで、とうもろこしの商品先物取引を勧誘されてYとの間で委託契約を結び、平成10年8月までAほかの外務員から勧誘されて取引を行った結果、約5519万円の損失を被った。しかし、その損失の内実は、全額手数料であった。

 すなわち、売買益自体は約4840万円の利益であったが、手数料合計額は約9875万円に及んだ結果、消費税と取引税を含めたトータルとしては前記損失となったのである。

 Xは、本件取引には、

  1. (1)説明義務違反、
  2. (2)新規委託者保護義務違反、
  3. (3)証拠金徴収義務違反、
  4. (4)両建、
  5. (5)無断売買、
  6. (6)仕切拒否、
  7. (7)過当取引があり、

一体として公序良俗違反、不法行為、債務不履行を構成すると主張して、Yに交付した現金4655万円の損害賠償と委託証拠金として交付した株券(口頭弁論終結時の時価は525万円相当)の返還、弁護士費用の支払を求めて訴えを提起した。



理由

 本判決は、公序良俗違反とまではいえないとして株券の返還請求は認めなかったが、次のとおり判断して本件取引が違法であるとし、過失相殺せず、現金部分の損害賠償請求と弁護士費用につき請求を認容した。

 「Y従業員らは、顧客保護のための新規委託者保護規制をじゅんしゅ遵守することなく、仕切拒否及び無断取引を繰り返し行うとともに、手数料稼ぎの意図すら疑わせるような過当取引を行っているから、Y従業員らの本件取引に関する一連の行為は、その悪質性を看過できず、全体として違法であり、Xに対する不法行為を構成するというほかなく、Yは、Y従業員らの右不法行為につき、民法715条に基づき、使用者責任を負うと認めるのが相当である」、「本件取引の違法性の程度及び悪質性に鑑み、公平の観点に照らして、過失相殺をしないのが相当である」。

 なお、説明義務違反の主張に対しては、次のように判断し、これを否定している。

 「Aらは、Xに対し、商品先物取引委託のガイド等のパンフレット類を用いた説明は行っていないものの、損益の計算方法等については一応の説明をしており、Xは、年齢や職業に照らし、特に先物取引への理解力が低いとは言い難く、実際に、本件契約締結直後のYのアンケートには、先物取引の投機性や危険性、元本保証がないことを理解し、値動きを見て追証や損益の計算ができる旨を回答しており、商品先物取引の危険性等についてある程度は理解していたと認められるから、Y従業員らにXに対する説明義務違反があったとまではいうことはできない」。



解説

 商品先物取引の分野では、違法性の判断についても損害論についても論点がある。

 違法性判断については、一連の行為全体について評価すべきであるとの一連の不法行為理論が定着している。この点について判断を示したものとして、最高裁(第三小法廷)平成7年7月4日判決(先物取引裁判例集19号1ページ。河内隆史「輸入大豆の先物取引に関する一連の行為が不法行為にあたるとされた事例」NBL590号60ページ)がある。

 この判例は、まず勧誘段階について、

  1. 1.未経験者に対し
  2. 2.電話で勧誘し、
  3. 3.商品先物取引の仕組みや危険性について十分な説明をせずに取引を始めさせたこと、

次に取引継続段階では、

  1. 1.多くの取引が実質的には一任売買の形態で、
  2. 2.短期間に多数回の反復売買がおこなわれ、
  3. 3.両建が安易に行われていること、

そして取引の終了ないし拡大段階では、

  1. 1.自主的な意思決定を待たず、
  2. 2.実質的には意向に反して取引を継続させ、
  3. 3.指示どおりの取引をせず、
  4. 4.資金能力を超えた範囲まで拡大させたことを指摘して、

これらの一連の行為を不法行為に当たるとした原判決の判断は正当であると判示している。

 問題は、この要件の全部がそろわなければならないのか、それともそうでなくてもよいのか、その場合には最低限どれとどれがあればいいのか、とりわけ勧誘段階だけの要件でもいいのか、といった点には触れていないことである。

 そこで、下級審判決の判断も統一されておらず、勧誘段階の違法性を強調するものもあれば、逆に勧誘段階の違法性はそれ自体としては認められないがその後の取引経過全般と関連して考察すると全体として違法といえるとするもの、勧誘から取引終了まで全体に対して違法と評価するもの、それぞれが違法であり全体としても違法といえるとするものなど、多様である。

 損害論については、過失相殺が大きな論点である。多くの判決は過失相殺をしているが、これを否定する判決も出てきている。参考判例にあげたものがそれである。

参考判例

  1. (1)京都地裁昭和60年6月20日判決 (判例タイムズ566号179ページ)
  2. (2)崎地裁昭和61年7月17日判決 (先物取引裁判例集6号53ページ)
  3. (3)札幌地裁昭和62年12月25日判決 (先物取引裁判例集8号56ページ)
  4. (4)大阪地裁平成元年6月15日判決 (判例時報1337号73ページ)
  5. (5)金沢地裁平成2年8月6日判決 (先物取引裁判例集10号136ページ)
  6. (6)大阪高裁平成3年9月24日判決 (判例時報1411号79ページ)
  7. (7)東京地裁平成4年8月27日判決 (判例時報1460号101ページ)
  8. (8)岡山地裁平成6年4月28日判決 (先物取引裁判例集16号43ページ)
  9. (9)鹿児島地裁平成7年12月14日判決 (先物取引裁判例集19号233ページ)
  10. (10)大阪地裁平成7年12月22日判決 (先物取引裁判例集20号3ページ)
  11. (11)京都地裁平成9年12月10日判決 (先物取引裁判例集23号87ページ)
  12. (12)大阪高裁平成10年7月30日判決 (先物取引裁判例集25号29ページ)
  13. (13)新潟地裁高田支部平成10年11月25日判決 (先物取引裁判例集25号299ページ)
  14. (14)札幌地裁平成11年1月18日判決 (先物取引裁判例集25号317ページ)
  15. (15)佐賀地裁平成11年5月11日判決 (先物取引裁判例集26号53ページ)
  16. (16)東京高裁平成11年9月28日判決 (先物取引裁判例集27号23ページ)


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