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[2003年3月:公表]

分譲マンション居室下のポンプ室からの騒音

 本件は、購入したマンション居室の真下にあった給水ポンプ室から相当程度の騒音が発生した場合について、売買契約の錯誤無効を認めた事例である。(大阪高等裁判所平成12年12月15日判決)

  • 判例時報1758号58ページ
  • 上告

事件の概要

X:原告(控訴人、消費者)
Y:被告(被控訴人、マンション建築・分譲業者)
A:Xの妻
B:Yの販売代理人(不動産業者)
C:Bの販売担当者
D:本件マンションの設計・施工・監理会社

 Xの妻Aは、Xの指示で平成8年1月22日、当時建築中の本件マンションを見たうえ、同マンションの販売センターを訪問し、同センターで売り主Yの販売代理人であるBの販売員Cから本件マンションのパンフレット、図面集および価格表を受け取り、モデルルームに案内され、説明を聞いた。

 その結果、本件居室(2階203号室)が気に入った。が、図面集の中の1階平面図や価格表によると、本件居室の真下(1階)には「受水槽」との記載があったので、水を溜めているふた付きのプール様のものが存在していると思い、それ自体は音はしないと思ったものの、注水音はするかもしれないと思い、Cに対し「音はしないの」と尋ねたところ、Cは「昔はしましたけど、今はしません」と答えた。

 そこでAは安心したが、なおも、2階の部屋と3、4階の部屋との価格差(上の階が高額で下の階が低額)について説明を求めたところ、Cは「マンションは高層住宅である。2、3階は高層のメリットがない。普通の家と同じだ」と答えた。そのため、Aは、右の価格差は眺望だけに由来するもので、受水槽の真上であることが価格に反映しているわけではないと思って安心し、同月28日、Yから本件居室を代金5160万円で購入した。

 ところが、同年8月27日にXら一家が本件居室に入居したその晩から、滝の流れるような「ザー」という音が室全体(床、天井、壁)から、不定期の周期で昼夜関係なく一日に何度も聞こえてくるのを経験し、同年10月にYに対し苦情を申し入れた。

 その結果、同年12月に、Aのほか、Y、B、Dの関係者が集まり、その席上、Aは階下(1階)の本件ポンプ室(図面集や価格表には「受水槽」と記載されていた場所)を見せてもらったところ、同室には受水槽のほか、給水ポンプ3台、圧力タンク、給水管等各種配管、制御盤等が設置されていた。Aの目には、それが巨大プラントのように見え「こんな物の真上に住戸を作るなんて」と怒りを覚えたが、そのとき初めて本件マンションは高架式給水方式(受水槽の水をポンプで屋上などの高架水槽にくみ上げ、重力を利用して各階に給水する方式)ではなく(重要事項説明書の記載には「受水槽」とともに「高架水槽」との記載があったが、本件マンションには高架水槽は存在しなかった)、加圧式給水方式(受水槽の水をポンプでくみ上げ各階に給水する方式。高架式でもポンプが必要だが、ポンプが稼動するのは高架水槽の水が無くなったときに限られるのに対し、加圧式では常時ポンプが稼動している点で異なる)が採られていることも知った。

 YおよびDは、本件ポンプ室内の防振対策を試みたが、Xは本件売買契約時の告知義務違反及び防音工事が不十分であることを理由としてYに対し本件居室の買い取りを求め、Yがこれを断ったため、平成10年6月19日に、Xは、瑕疵担保責任による解除、錯誤無効、詐欺取り消しを理由として売買代金の返還を求めて訴訟を提起した。一審はXの請求を棄却したので、Xが控訴した。



理由

 本件ポンプ室を発生源とするX居室における騒音は、本件売買後のXの要求に基づくYないしDによる改善措置により多少は軽減したものの、その後もなお、日本建築学会の適用等級基準の特級ないし1級程度の騒音は発生していて、通常の静けさの住環境にあるとは必ずしもいい難いものであった。

 そればかりか、本件ポンプの消耗部品である「密封玉軸受け」の経年劣化による異常音が発生するに至っては、同基準の3級(遮音性能上最低限度である。使用者からの苦情が出る確率が高いが社会的、経済的制約などで許容される場合がある)に該当し、X居室が通常の静けさの住環境にあるとは全くいえない状況になっていた。そして、右密封玉軸受けの経年劣化による異常音を避けるためには3年を目安とした交換を必要とするが、そのためには、本件マンション管理組合において費用負担を承認する旨の同組合理事会の決議が必要であって(ちなみに、本件ポンプ等給水設備自体の経年劣化により異常騒音が発生した場合も同様である)Xのみの意見で交換することはできない状況にあるというべきである。

 そして、右事実から、X居室には民法570条にいう隠れた瑕疵があると直ちにいうことはできないとしても、本件売買契約におけるXの意思表示は法律行為の要素に錯誤があったというべきである。

 すなわち、本件売買契約に際し、図面集の中の1階平面図や価格表のX居室の真下(1階)の「受水槽」との記載に関し、Xの妻Aが、Cに対し「音はしないの」と尋ねたのに対し、Cが「昔はしましたけど、今はしません」と答えたことは、通常の静けさを享受できる住戸としてX居室を購入する旨のXの動機が表示されているというべきである。

 ところが、X居室における騒音の状況が前記のとおりである以上、Xの意思表示には法律行為の要素に錯誤があるというべきであり、本件売買契約は無効であるといわなければならない。



解説

 本判決は、購入したマンションの真下にあるポンプ室からの騒音を理由として、購入した居室の売買契約が要素の錯誤により無効となると判断したものである。

 マンションの騒音に関する事例には、上階からの生活騒音等によりマンションの遮音性に欠陥があるとして瑕疵担保責任、錯誤無効等を主張した場合に、売買の目的を達することができない程度の瑕疵があると認めることはできないとして、買主の請求を排斥した事例(参考判例(1))、新築マンションの分譲に当たり、十分な防音性能を備えたマンションを提供するとの広告およびセールストークに反して遮音性を欠くマンションを提供した売主には、それにより下落した価格相当の損害を賠償する責任があるが、当該事件においては損害額の証明がないとしつつ、不眠等の精神的損害については認容した事例(参考判例(2))などがあるが、騒音を理由とする錯誤無効を認めた事例は珍しい。

 錯誤無効の結論を導くにつき、本判決は、日本建築学会の集合住宅居室における室内騒音に関する適用等級基準を用いている。これは、騒音等級に応じて、適用等級を特級、1級、2級、3級に分類するものであり、同学会は、1級をもって学会推奨標準としつつも、さらに「集合住宅などで、建築物に付属するポンプ、エレベーターなどの共通設備機器の運転による騒音(とくに固体伝搬音)については、レベルの問題ではなく、聞こえるかどうかが問題になるので、右適用等級基準一級の性能を満足していても、音が聞こえるとの指摘を受ける場合がある。とくに、ポンプなど『ブーン』という鈍音性の成分を含む騒音は、小さなレベルでも感知されやすく、クレームにつながることが多いので、1ランク厳しい値で評価したほうがよい」としている。

 この基準によると、本件居室の騒音は、本件ポンプの消耗部品である密封玉軸受の経年劣化による異常音が発生するような場合には、同基準の最低レベルである3級ないしそれより下に該当することになる。このような学界基準を用いた判断は、同種事案の解決の参考となろう。

 なお、動機の錯誤は動機が相手方に表示されて意思表示の内容になる場合に要素の錯誤(民法95条本文)として無効になり得るというのが判例の立場であるが、本判決は、売買契約締結に際して、買い主が「音はしないの」と尋ね、売り主が「昔はしましたけど、今はしません」と答えたことによって、動機が表示されていると判断した。また、YはXに重大な過失(同条ただし書き)があると主張したが、本判決はXに重過失はないとした。



参考判例

  1. (1)新潟地裁平成3年12月5日判決 判例集未登載
  2. (2)福岡地裁平成3年12月26日判決 判例時報1411号101ページ
  3. (3)最高裁判所昭和37年11月27日判決 判例時報321号17ページ
  4. (4)東京地方裁判所昭和58年6月29日判決判例タイムズ508号128ページ
  5. (5)東京高等裁判所昭和61年8月6日判決 判例時報1206号30ページ
  6. (6)大阪高等裁判所平成元年9月22日判決 判例タイムズ714号187ページ
  7. (7)大阪高等裁判所平成2年6月14日 判例時報1375号79ページ
  8. (8)東京高等裁判所平成6年7月18日 判例時報1518号19ページ
  9. (9)大阪高等裁判所平成8年3月27日 判例時報1585号35ページ

※(3)〜(9)は、売買の目的物の性質に関して要素の錯誤を認めたもの。



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