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[2002年11月:公表]

業務提供誘引販売取引の定義とクーリング・オフ

 本件は、行政書士の資格を取得すれば顧問契約を結ぶことができるとの説明の下に、行政書士資格講座の契約をさせたケースについて、特定商取引法の業務提供誘引販売取引には該当しないとの事業者の主張を退け、業務提供誘引販売の要件を満たしているとしてクーリング・オフを有効とした事例である。(名古屋地方裁判所平成14年6月14日判決)

  • 福井県消費生活センター提供
  • 確定

事件の概要

X:原告(クレジット会社)
Y:被告(消費者)
A:販売店

 Yは、平成13年11月27日、Aとの間でAが教材および答案添削等の学習指導を提供し、Yが38万2000円を支払うという内容の「行政書士取得講座」の受講契約を締結した。また、YはXとの間で、本件契約代金の立て替え払い契約を締結した。

 Aは、本件契約を締結するに当たり、「顧問契約」の標題で始まる以下の内容が記載された文書をYに提示した。「お客様が指導期間内に行政書士試験に合格されますと、弊社はお客様と新たに顧問行政書士としての契約を締結させていただく用意がございます。契約条件は次のとおりです。ご確認のうえ、該当時にお申し出ください(顧問の業務は行政書士の業務とはもちろん異なりますし、行政書士業務のあっせんはいたしかねますので、お間違えのないようお願いします)。

イ.弊社が依頼する業務(添削問題のチェック・模擬問題の作成等)を期間内で処理していただきます。

ロ.基本の契約期間は3ヵ月です。双方に異議がなければ最高1年間まで、更新いたします。

ハ.弊社がお支払いする報酬は、1年間最高60万円(月額最高5万円)を限度とし、イの業務の量に応じて月々お支払いたします」。

 Yは、本件契約は特定商取引法の業務提供誘引販売取引に該当するとして、書面交付から20日以内である同年12月15日発信の書面により契約を解除する旨の意思表示をした。

 これに対しXは、
(1)本件契約は「商品又は役務を利用した業務」に該当しない、
(2)仮に合格したとしても、最短でも1年後、万一合格すれば得られるかもしれないという、極めて不確定な利益が本件契約締結の動機となることはありえない、

などと主張して、業務提供誘引販売取引には該当しないから、クーリング・オフ期間は8日間であり、本件解除は期間経過後のもので効力を生じないとして争った。



理由

業務提供誘引販売取引の要件について検討すると、特定商取引法51条によれば、

(1)「業務提供利益」を収受しうることをもって顧客を誘引し、
(2)「特定負担」を伴う、
(3)「商品の販売もしくはそのあっせん、または役務の提供もしくはそのあっせんに係る取引」、

に分説されると解されるところ、本件契約においては、YがAに対して代金支払債務を負担すること、これに対して、Aは教材や答案添削による学習指導という役務の提供を行なう債務を負担すると定められていたから、上記(2)、(3)の各要件を充足することが明らかである。

 そこで、(1)の要件の充足性について検討するに、同要件を細説すると、

ア.販売業者が提供ないしあっせんするものにして、

イ.販売の目的たる商品または提供される役務を利用する業務に従事することにより得られる利益(業務提供利益)を、

ウ.収受しうることをもって誘引する、

ものがこれに該当すると解される。

 そして、前記「顧問契約」の文言によれば、アの要件を充足することは明らかである。

 また、Aが提供すべき教材や学習指導の直接の目的は、受講者による行政書士資格の取得、すなわち行政書士試験の合格であることが明らかである。それゆえ、その「試験に合格」した場合に「顧問行政書士としての契約を締結」し、「弊社が依頼する業務(添削問題のチェック・模擬試験の作成等)」の報酬として年間最高60万円が支払われることを宣言している以上、その業務は、行政書士本来の業務でないとしてもなお、Aが提供する教材や学習指導を「利用した」業務に当たるし、その報酬は、当該業務に従事することによって得られる利益に当たるというべきである。

 したがって、イおよびウの各要件も充足すると判断するのが相当である。



解説

 本件は、特定商取引法に定める「業務提供誘引販売取引」に該当するか否かをめぐって争われたケースに関する初めての判決である。

 業務提供誘引販売取引は、法律で規制はされたものの、要件が複雑であるためか、事業者の多くは適用対象ではないとして争い、書面交付義務やクーリング・オフ制度を順守しないものが極めて多い実情にある。本件業者も、業務提供誘引販売取引ではないとして、クーリング・オフ期間は8日であり20日ではないとして争った。

 さらに、本件業者は、
(1)国家資格である行政書士試験に合格した場合に業務を提供するものであり、試験の合格は業者の作為の入る余地がないので「業務提供」に当たらない、
(2)業務提供については、「用意がある」にすぎず当然提供するわけではないので、「業務提供」に該当しない、
と反論した。

 (1)については、判決では「Aが提供すべき教材や学習指導の直接の目的は、受講者による行政書士資格の取得すなわち行政書士試験の合格であるから、これが国家資格であって販売業者の作為の入る余地がないとしても、あるいはその合格率が低い(最近10年間の合格率は平均8%弱)としても、その合格を条件としてAが『顧問行政書士としての契約』を締結し、報酬を支払うことを宣言している以上、要件の充足の妨げとなるものではない」とした。

 (2)については「当該業務に従事するか否かの選択権を顧客が有する点も当然のことを規定したにすぎないし、『用意がある』の文言も本件の文言全体からは、当該契約を締結するか否かの選択がAの完全な任意にゆだねられていることを示すものではなく、行政書士資格合格者は、業務を遂行できない特段の事情がない限り、当該契約を締結する機会を与えられるとの趣旨に解されるから、前記判断を覆すものではない」と判断し、業務提供誘引販売取引に該当するとした。

 業務提供誘引販売取引をめぐる事例においては、国家資格の取得を条件として業務提供を誘引するものや、全員に当然業務を提供することを確約しないという事例も少なくない。こうしたケースでは事業者は、本件事件の場合のように「業務提供」の要件を満たしていないと反論することが多い。

 本件判決は、こうしたケースであっても、業務提供誘引販売に該当するとの判断を示したもので、類似の相談処理の参考となる。



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