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[2002年5月:公表]

建物賃貸借契約と自力救済条項

 本件は、家賃の滞納があったときは建物に立ち入ることができると定めた契約条項に基づいて賃借人に無断で建物に侵入し鍵を取り替えた行為が違法であるとして、賃貸管理業者の損害賠償責任が認められた事例である。(札幌地方裁判所平成11年12月24日判決)

  • 判例時報1725号160ページ
  • 控訴

事件の概要

X:原告(マンションの賃借人)
Y1:被告(マンションを管理する会社)
Y2:被告(Y1の取締役)
A:Y1の従業員
B:マンションの貸し主

1.この事件で問題となったのは、マンションの賃貸借契約に入っていた「賃借人が賃借料の支払いを7日以上怠ったときは、賃貸人は、直ちに賃貸物件の施錠をすることができる。また、その後7日以上経過したときは、賃貸物件内にある動産を賃借人の費用負担において賃貸人が自由に処分しても、賃借人は、異議の申立てをしないものとする」という契約条項である。

2.Xは、Bの所有するマンションを賃借して妻とともに居住し、そこで清掃業を営んでいた。Y1は、不動産の仲介と管理を業とする会社であり、Xが本件居室を賃借するに際しての入居を仲介した。また、このマンションのある建物を管理する業者でもある。Y2は、Y1の取締役である

3.Xは入居後、Y1に対し、雨漏りがするためカビが発生したことの苦情を述べたが、Y1は、カビによる被害の弁償には応じられないと答えた。そこでXは賃料の支払を停止したところ、Y1は、Xに対し、「督促及びドアロック予告通知書」と題する文書を交付して未払い賃料の支払を求めた。この文書には、指定日時までに未払い賃料を支払わないときは、本件居室の扉をロックする旨の記載がされていた。

 Xは、この督促に応じず、その後も賃料の支払を留保していたところ、Y1は、Xに対し、「最終催告書」と題する文書を交付して未払い賃料の支払いを求めた。これには、指定日時までに連絡がない場合には以後、何ら催告することなくドアロックをし、マンションへの立ち入りを禁止することが記載されていた。

4.Xがこの督促に応じず、上の指定日に当たる日に妻とともに外出したところ、その間にY1の従業員であるAは、Y2の指示を受け、マンションに立ち入り、居室内の水を抜き、ガスストーブのスイッチを切り、また、浴室の照明器具のカバーを外すなどしたうえで、マンションの錠を取り替えた。

 そこでXは弁護士に委任し、Y1に対し直ちに鍵を開けるよう要求したが、Xが未払賃料を支払えば鍵を開けるとの回答で、結局、Xは、居室に立ち入るため、錠を取り替えることを余儀なくされた。

5.これらのY1・Y2の行為について、XがY1・Y2に対し不法行為を理由に、懲罰的要素も加味した100万円の損害賠償を請求したのが、この事件である。

 Yらは、賃料の不払いが増加しており本件特約が絶対不可欠であること、同業他社でも同様の特約を設けていること、本件特約に基づく措置をとるのは賃借人が根拠のない主張をして賃料の支払いを拒絶し、再三にわたる催告にも応じないなどの場合に限られていること、Xは本件特約を認識した上で賃貸借契約を締結していることなど、本件行為の正当性を強く主張した。

 これに対し、判決はYらの主張を退け10万円の限度でXへの損害賠償を認めた。

理由

 この事件で問題となった契約条項は「賃貸人側が自己の権利(賃料債権)を実現するため、法的手続によらずに、通常の権利行使の範囲を越えて、賃借人の平穏に生活する権利を侵害することを内容とするものということができるところ、このような手段による権利の実現は、近代国家にあっては、法的手続きによったのでは権利の実現が不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合を除くほか、原則として許されないものというほかなく、本件特約は、そのような特別の事情がない場合に適用される限りにおいて、公序良俗に反し、無効である」。

 「本件特約の必要性及びその運用状況が仮にYらの主張するとおりであったとしても、また、仮にYら主張のとおりXがことさら賃料不払の理由を作出するような者であったとしても」「さらに、Yら主張のとおりXが本件特約の存在を認識した上で賃貸借契約を締結したとの事実が仮に認められるとしても、右のとおりの本件特約の内容に照らせば、やはり、右結論に何ら影響を及ぼすものではない」。

 「慰謝料は、現実に被った精神的損害の填補であるとみるべきであり、これに懲罰的ないし制裁的要素を含めることは適当でない」。この事件でXが被った精神的損害は金10万円に相当すると認めるのが適当である。

解説

1.この事件のY1は、家賃の取り立てをする権利を言い立て、その行使として、裁判所に問題を持ち込むことをせず、自身で実力で鍵の取り替えという行動に出た。一般に、裁判所に訴えるなどの法的な手続によらず自身の実力を用いることを私力の行使といい、私力の行使により権利の実現を図ることを自力救済という。自力救済が問題となる場合には、まず、実力を用いる者が、そもそも、その前提となる権利を有しているか(a)、かりに権利を有しているとしても、その実現のために私力の行使が許される場合であるか(b)の二点が問われる。

2.賃貸された物の修繕をすることは、当事者間に異なる約束がある場合を除き、賃貸人(この場合は家主)の義務であり(民法606条1項)、しかるべき修繕を賃貸人がしない場合は、賃借人(この場合は入居者)は、修繕がなされないために物を使用収益することができなかった限度において、賃料の一部の支払を拒むことができる(後掲判例1)。

 また、賃料の不払いが正当の限度を超えている場合にも、そのかぎりで賃借人の契約不履行があることにはなるが、そのことを理由に賃貸人が契約を解除することができるためには、賃貸借関係に関する信頼関係が破壊されると認められる程度に至っていることが必要であり、このことが肯定されるときに初めて、(a)にいう前提たる権利の存在が認められる。

3.(b)の問題について判例は、「私力の行使は原則として法の禁止するところである」ことが原則であり、例外として「法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能または著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合において」は、「必要の限度を超えない範囲内で」私力の行使が許されるとする(後掲判例2)。

 この事件では、これらの要件が欠けるため正当な自力救済ではないとされたが、そもそもY1の側が退去を請求するにたりる権利を有していたというべきか自体(上掲の(a)の問題)からして疑問がある。

4.YらがXに対し賠償するべき精神的損害も、正面から懲罰的損害であるとする主張では認められにくいであろうが、このように、そもそも違法な自力救済による権利行使である以前に、権利を有していないと考えられる場合の違法行為であることを強調して考えるならば、その金額も異なるものとなったのではないかと思われる。

参考判例

  1. (1)最高裁判所昭和43年11月21日判決 最高裁判所民事判例集22巻12号2741ページ
  2. (2)最高裁判所昭和40年12月7日判決 最高裁判所民事判例集19巻9号2101ページ