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[2001年9月:公表]

ホテルでの手荷物紛失事故と免責約款

 本件は、ホテルでの手荷物紛失事故について、宿泊約款の効力を否定してホテルの責任が認められた事例である。(神戸地方裁判所平成12年9月5日判決)

  • 判例集未登載

事件の概要

X:原告(宿泊客の経営する会社)
Y:被告(ホテル)

(関係人)
A:Yホテルのベルボーイ
B:宿泊客(X会社の代表取締役)

 X会社のBは、某展示場において開催された宝飾展に参加するために平成9年6月11日と13日に2日間Yホテルに宿泊した。13日午後5時30分ころ、Bは展示場からキャリーカートにレザーバック1個とボストンバッグ型スポーツバッグ1個を乗せ、ダンボール箱1個を手に持って宿泊のためYホテルに入った。2つのバッグの中には展示会用の宝飾品が入っており、ダンボール箱には不要になった衣類等が入っていた。Bはフロントでチェックインする際に、Yホテル従業員のベルボーイAに、ダンボール箱を宅配便で東京に発送する手続きを依頼するとともに、それ以外の荷物を宿泊する部屋に運んでもらうために預けたところ、Aは右レザーバッグとスポーツバッグを乗せたキャリーカートとスーツケースを台車に積み、部屋まで運ぶ途中、右ダンボール箱の宅配便の発送手続きをしていたすきに、レザーバッグとスポーツバッグをそれを乗せたキャリーカートごと何者かに盗まれた。

 そこでXは、AはYホテルのベルボーイとして、Yホテルの宿泊客から預かった荷物が盗まれないよう注意すべき義務があり、預かった荷物を宿泊部屋まで運搬してBに引き渡すまでは、荷物を終始監視しこれが盗まれないように注意して盗難を防止すべき義務があるのにこれを怠ったものであり、これはAがYホテルの業務を遂行するにつき生じたものであるから、Yホテルの使用者責任による損害賠償責任があるとして盗まれた宝飾品の卸売価格などの時価から損害保険で補填されなかった分など約1500万円の賠償を求めた。

 これに対してYホテルは、本件事故は、宿泊約款15条のうち、第2項が適用されるものであるところ、YホテルはBから、本件盗難被害品についてその種類及び価額の明告を受けていなかったものであり、損害賠償額は15万円に限られる。仮に責任限度額の適用がないとしても、Xには、貴重品の預託は責任制限のあることや、貴重品預託はフロントになすべきであって、ベルボーイ等に託すべきものではないことは、約款を待つまでもなく公知の事実であるのに、約3,000万円もの貴重品をいとも無造作に、かつ貴重品であるとの告知もなく、一般手荷物としてベルボーイに預託してしまったものであり、手荷物の紛失について応分の過失がある。その過失は少なくとも60%を下らない、などと主張して争った。

理由

 1 AはYホテルのべルボーイとして、Yホテルの宿泊客であるBからその荷物を客室まで運搬するのを手伝うために預かったのであるから、右荷物の紛失、盗難が生じないように管理してこれをBの客室まで届けるべき注意義務があったというべきである。しかるに、Aは、Bから荷物を預かった後、一時荷物をYホテル1階フロアに放置して宅配便の手続きをしに行き、右荷物から目を離し、その間に本件盗難に遭ったものであって、右Bから預かった荷物に対するAの管理は明らかに右注意義務を怠った過失があったものと認められ、Aの右行為は不法行為を構成するものというべきである。

 そして、他の宿泊客やその他の利用者が多数出入りし、その中にはどのような人物がいるかも知れないホテルのロビーで、わずかな時間であろうと、宿泊客から預かった荷物を監視人も置かずに放置するなどしてこれから目を離したりすれば盗難に遭う危険性があることは、ホテルの従業員であればごくわずかの注意をもってたやすく認識・予見し得ることというべきであり、したがって右Aの注意義務の欠如は著しく、重大な過失と評価すべきものというべきである。

 Aの右不法行為がYホテルの事業の執行につき行われたものであることは、前記認定の事実から明らかである。したがって、Yホテルは、民法715条1項に基づき、本件盗難によりXが被った損害を賠償すべき責任がある。

 2 本件約款は、その規定の内容に照らし、商法578条(運送営業の責任の高価品に関する特則)、595条(場屋営業者の責任の高価品に関する特則)と同趣旨のものと解される。

 右商法の規定は、その文言等に照らし、直接には債務不履行による損害賠償責任について規定したものと解されるが、右の各営業者等が約款によってその利用者との間で不法行為による損害賠償責任について右のような特則を設けることも、その内容が不合理で、公序良俗に反するものでない限り、許されるものと解される。

 しかしながら、宿泊客がフロントに預けず、Yホテルに貴重品の種類、価格等を明告しなかった場合であっても、Yホテル側の故意または重大な過失によって生じた損害についてまでYホテルの責任額に制限を設けるのは、極めて不合理なものであり、約款2項の責任制限特則は、Yホテルの故意または重大な過失によって生じた損害にかかわる部分は、公序良俗に反するものとして無効のものと解するのが相当である(Xの請求を全額認容)。

解説

ホテルに宿泊していた客がべルボーイに手荷物の運搬を依頼したところ、ベルボーイのミスで手荷物が紛失したために、ホテルに対して損害賠償を求めた事例である。ホテル側は、宿泊約款を根拠に、損害賠償額は15万円を上限とするところ、本件では1300万円部分は損害保険で補填されているので、ホテルには損害賠償責任はないなどと主張して争った。そこで、本件では、不法行為の場合にも、本件約款の適用はあるか、また約款は有効といえるか、が主な争点となった。宿泊約款15条には、宿泊客の手荷物等の紛失の場合の損害賠償責任に関して、次のように定めていた。

 「1項 宿泊客がフロントにお預けになった物品又は現金並びに貴重品について、滅失、毀損等の損害が生じたときは、それが、不可抗力である場合を除き、当ホテルは、その損害を賠償します。ただし、現金及び貴重品については、当ホテルがその種類及び価額の明告を求めた場合であって、宿泊客がそれを行わなかったときは、当ホテルは15万円を限度としてその損害を賠償します。」

 「2項 宿泊客が、当ホテル内にお持ち込みになった物品又は現金並びに貴重品であってフロントにお預けにならなかったものについて、当ホテルの故意又は過失により滅失、毀損等の損害が生じたときは、当ホテルは、その損害を賠償します。ただし、宿泊客からあらかじめ種類及び価額の明告のなかったものについては、15万円を限度として当ホテルはその損害を賠償します。」

 判決では、上記約款は、債務不履行だけではなく不法行為の場合も含む全損害についての特則を定めたものであると認定したうえで、ホテル側の故意または重大な過失によって生じた損害についてまでYホテルの責任額に制限を設けるのは、極めて不合理なものであると判断し、「Yホテルの故意又は重大な過失によって生じた損害に係る部分は、公序良俗に反するものとして無効のものと解するのが相当」であるとした。

 本件の宿泊客は宝飾店経営者で、展示販売会に出品するために宿泊していたという事案であり、消費者契約には該当しない。しかし、結論的には消費者契約法8条に定める債務不履行または不法行為に基づく損害賠償責任の全部または一部を免除する規定は無効とする考え方と同様の解釈をしたものであり、不当条項の一事例として参考となる。