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[2001年7月:公表]

賃貸借契約に関する判例

 本件は、住宅金融公庫融資物件の賃貸借契約に関する事例である。(大阪高等裁判所平成10年9月24日判決)

  • 判例時報1662号105ページ
  • 確定

事件の概要

X:被控訴人(原告:個人、建物の借り主)
Y:控訴人(被告:個人、建物の貸し主)

 Yは、住宅金融公庫からの融資を受けて建物を築いた。この建物は、賃貸を予定して築造されたものである。住宅金融公庫法三五条および住宅金融公庫法施行規則十条によれば、公庫の融資を受けて築造した建物の賃貸においては、「賃借人の不当な負担になる賃貸条件」を設けてはならないこととされており、Yへの融資も、このことを前提とするものである。

 Xは、Yの築造した建物を賃借することとし、賃借に当たり敷金として二十九万余円を支払った。この賃貸借契約は、一九九四年四月に更新されたが、翌九五年九月に終了し、XはYに建物を明け渡した(更新から明け渡しまでは十八月である。なお賃貸借契約の成立時期および契約終了の事情は不明)。

 このX・Y間の賃貸借契約には、「設備協力負担金」と称する十五万円の金銭をXがYに支払う旨の約束がなされた(以下「負担金の約束」という)。しかし、Xは、この負担金の支払いをしないまま、建物の明け渡しに至った。

 負担金の約束の趣旨は、建物の内部に設置している冷暖房設備をXが使用することに伴う利益の清算である、とYは主張している。しかし、その具体的金額が十五万円であるとされる趣旨は、明らかでない。裁判所からの調査嘱託に対する住宅金融公庫某支店賃貸住宅課の回答書によれば、こうした設備の使用に伴い建物の借り主が得るところの、いわば実費分の負担として、冷暖房設備の購入資金の償却としては月当たり設備購入代金の〇.〇一六五七三%に当たる額を、また、冷暖房設備の維持管理に要する費用としては月当たり設備購入代金の〇.〇〇一四%に当たる額を、月額使用料としてそれぞれ収受することを限度とするべきことを指導している。問題の建物に設置された冷暖房設備の代金は、おおよそ十六万五千円であると認められ、これに住宅金融公庫の指導利率を乗じた月当たりの額は約三千円となる。

 建物を明け渡したXが、Yに対し敷金の返還を求めたのが、この事件である。これに対しYは、問題の、約束の負担金の支払いがなされていないことを指摘して争った。裁判所は、月当たり三千円の十八月分に当たる金額を敷金額から差し引いた二十四万余円の支払いをYに命じた。

理由

本件各建物部分を借りることと冷暖房機の使用とは一体不可分になっていて、賃借人としては部屋は借りるが冷暖房機の使用は断るといった自由を有していないなどの事実関係の下では、Yが本件設備協力金を受け取ることは、住宅金融公庫法三五条、同法施行規則一〇条に違反するというべきであり、右認定判断を覆すに足りる証拠はない。住宅金融公庫法三五条、同法施行規則一〇条に違反した契約の私法上の効力については、その契約が公序良俗に反するとされるような場合は別として、Xがいうように同条項に違反しているからとの理由だけで本件約定の全体が直ちに無効であると解するべきではない。

 住宅金融公庫法は、公庫に対する賃貸人の義務を定めることによって、同法の目的を達成することを予定しているのである。同法は、右のように社会政策的な見地から、同法による融資を利用して建築した賃貸建物についての賃貸条件等を規制しているのであって、それ以上に右賃貸建物の賃貸条件の私法上の効力まで規制しているものではないから、同法三五条、同法施行規則一〇条の趣旨に抵触する賃貸条件を定めて賃借人にその賃貸条件を承諾させたからといって、それだけで直ちにその賃貸条件についての約定の私法上の効力まで否定することはできないものというべきであり、その約定が同法等の規制を逸脱することが著しく、公序良俗規定や信義則に照らして社会的に容認しがたいものである場合に限り、かつその限度においてのみ、その約定の私法上の効力が否定されるものと解するのが相当である。

 設備協力金の金額と、住宅金融公庫の指導している標準使用料の算式により算出される金額との差額が後述する程度にとどまっている本件においては、設備協力金の徴収を定めた約定は、その全体が公序良俗に反するとか、その請求が信義則に反するとかいうことはできない。

 冷暖房機についての設備協力負担金は、その金額が冷暖房機の通常の使用によって当然生じる償却費や維持管理費の程度のものである場合は、賃借人にとって強制されたものとはいえその使用によって享受する生活上の利益を得るために必要な実費の範囲にとどまっており、かつ賃貸人に利益を得させるものではないといえるから、設備協力負担金の徴収を定めた賃貸条件はその限度において私法上有効と解されるところ、他方において、右の実費の限度を超過する部分は、冷暖房機の使用を強制された賃借人の犠牲において賃貸人が利益を得ることになるものといえるから、住宅金融公庫法の社会政策的目的に照らしても、これは社会的に容認しえないものと評価されるといわざるを得ない。住宅金融公庫は冷暖房機の標準使用料算出方法を定めてその方式によって算出される額の範囲で設備協力負担金を徴収するよう指導しているのであるが、本件に明らかな事実関係に照らすと、標準使用料の算出によって算出された金額は前記の冷暖房機使用に必要な実費に当たるものであって合理的なものと推認することができる。したがって、設備協力金についても、その金額が公庫の指導する標準額を超過する結果を生じている以上、超過部分は是正しなければならず、その方法としては、設備協力金のうち、公庫の指導している標準額を超える部分は公序良俗に反し、私法上も無効になるものとして是正するのが相当である。

解説

 1 住宅金融公庫法は、住宅の建設・購入に必要な資金を銀行などの一般の金融機関から融通することを困難とする場合に、公的資金による有利な融資を実行することにより、国民大衆が健康で文化的な生活を営むに足る賃貸住宅を供給することを目的とする法律である(同法一条一項参照)。このような趣旨に基づき同法は、公庫が賃貸人に対し償還期間や貸付利率につき有利な条件で必要資金を融資する一方で、賃貸人に対しては賃料の限度を設定する(同法三五条二項)ほか、賃貸の条件に関し、住宅金融公庫法施行規則一〇条に定める基準に従って賃貸することを義務づけ(同法三五条一項)、賃貸人が賃借人にとって不当な負担となる同法違反の賃貸条件を定めた契約を賃借人に締結させた場合には、その違反状態の解消のために、罰則規定を設け(同法四六条)、また、融資金の弁済期が到来していなくても、いつでも償還を請求することができると定める(同法二一条の四第三項七号)。

 2 この事件で問題となった住宅金融公庫法の規定のように行政上の取締規定が一定の規制をなしている場合に、それと相入れない民事上の契約が有効かどうかは、一概にいえない。食品衛生法二一条に違反して無許可で食肉を販売している者の結んだ食肉の仕入契約を有効とする判例(後掲判例(1)参照)などがあり、一般には、1)問題となる規定の趣旨目的、2)違反行為に対する倫理的非難の程度、3)取引安全の要請、4)当事者間の信義・衡平などを総合考慮して決するべきであると考えられている。この事件では、おそらく、これらの諸要素の考慮の結果として、一定限度で負担金の約束を有効とする解釈が採られた。

 3 この事件で問題となったのは、公的資金が投入された住宅について政策目的が適切に確保されるようにする見地から、民事上の行為に対するコントロールをどのように行なうか、ということである。コントロールの具体的形態は、この事件で問題となったような契約の効力の否定のほかに、いったんは有効に成立した契約を買戻権(後掲判例(2)参照)や解除権の行使により解消するといったものもある。都市基盤整備公団の発足などに代表される官民の役割分担の流動化のなかで、こうした諸々のコントロールが複雑なものとなってくる領域もみられる。

参考判例

  1. (1)最高裁判所昭和三十五年三月十八日判決
    (最高裁判所民事判例集一四巻四号四八三ページ)
  2. (2)最高裁判所平成十一年十一月三十日判決
    (金融・商事判例一〇八一号二四ページほか)