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[2001年4月:公表]

ダイヤのアポイントメント商法とクーリング・オフ

 本件は、ダイヤモンドのアポイントメント商法で交付書面について判断して消費者側が勝訴した事例である。(大阪地方裁判所平成12年3月6日判決)

  • 消費者法ニュース45号69ページ掲載(要旨)
  • 確定

事件の概要

X:原告(消費者)
Y:被告(クレジット会社)
A:関係人(本件ダイヤの売主)
B:関係人(Aからダイヤの販売の委託を受けた者)
C:関係人(Bの従業員、Xにダイヤモンドの説明をした者)
D:関係人(Bの従業員)

 Xは裁判で、
「平成九年八月初め、Xの自宅に見知らぬ若い女性から五〜六回電話で会いたいと言って来た。その際宝石の話は一切なかった。

 平成九年八月十日午後二時に某橋近くの路上で会おうと待合場所を指定され赴いたところ、Dが来て、電話をかけた女性は会社で接客中だからBの営業所へ行こうと誘った。同所へ行くとすぐCが出て来て三〜四時間くらい勧誘された。その内容は『○○クラブのメンバーになれば、情報誌にのせてもらえる。女性から連絡があれば紹介してもらえる』という趣旨の説明があり、『メンバーになるためにはブライダル関係の物を買わないといけない』といい、『ダイヤを今安いうちに買っておけばいずれ値上がりする』といってダイヤの裸石の見本らしきものを見せて、その見本と同じようなダイヤを買うのだと言われた。」
と主張している。

 そして、Bは同日、同所で〇.五カラットのダイヤモンドルース一個を八十一万九千円で売った。Yは、Xとの間で、同年八月十九日、YがAに本件売買代金を支払い、売買代金に分割手数料を加えた合計金百十三万八千四百十円をXがYに支払う旨の立替払契約を締結した。Yは、同年八月二十四日、本件立替払契約に基づき、Aに対し本件売買代金を支払った。

 Cは、本件売買契約の締結の際、Xに対し、売買契約の内容を明らかにする書面である本件ダイヤモンドルースの鑑定書および保証書を提示して本件売買契約の内容を説明し、さらに、同年十月七日、Xに対し、本件鑑定書・保証書を送付した。その後、平成十年八月十一日、XはAに対し、書面により本件売買契約を解除する旨の意思を表示した。

 このような状況の下で、YがXに対して立替払契約に基づく百十三万八千四百十円の債権を有すると主張するので、Xは、第一義的にダイヤモンドリング売買契約の不成立、予備的に公序良俗違反による右売買契約の無効、仮定的に訪問販売法第六条一項による右契約の解除(本件で交付された書面は正に商品について正確な認識が得られないものであり、訪問販売法第五条の書面に該当しないから、同法第六条のクーリング・オフ期間は進行していない)を主張し、割賦販売法第三〇条の四を理由として、債務の不存在確認を求めて訴訟を提起した。



理由

Cの証言によれば、以下の各事実が認められる。

・平成九年八月十日、Bの従業員であるCは、Xに対し、〇.四カラットのダイヤモンドルース二個を提示し、ダイヤモンドの大きさ、色、内包物の有無、カット等について説明した。

・Xは、Cに対し、もう少し大きいダイヤモンドルースを要望した。
・Cは、Xに対し、〇.五カラットのダイヤモンドルース一個を提示し、右ダイヤモンドの大きさ、色、内包物の有無、カット等について説明した。
・Xは、Cに対し、右ダイヤモンドを買う旨の意思表示をした。

 右各事実によれば、XとBとの間で、本件売買契約の目的物は特定されたものと認められる。

 訪問販売等に関する法律第六条にいう、いわゆるクーリング・オフは、訪問販売においては、購入者が、契約意思が不安定なまま契約を締結する場合があることに鑑み、後日、購入者が冷静な判断ができるようになってから一定の期間内に限って契約の解除を認めたものである。

 したがって、同条一項一号にいう書面は、後日、契約解除の判断材料にする趣旨であるから、購入者に対し現実に交付されることが必要である。それ故、右認定のとおり、Cが、本件売買契約締結の際、Xに対し、本件鑑定書・保証書を提示したことをもって、右にいう書面の交付に換えることはできない。

 また、同条項にいう書面は、遅滞なく購入者に交付しなければならないから(同法第五条)、Bが平成九年十月七日、Xに対し、本件鑑定書・保証書を送付したことは、右にいう書面の交付に当たらない。

 以上によれば、Xの請求(XはYに対する立替払契約に基づく百十三万八千四百十円の支払債務は存在しない)は理由がある。



解説

訪問販売では、セールスマンの巧みなセールストークによって契約させられることが多い。そこで、契約内容を明確にし、後にトラブルが生ずることを防止するために、業者が消費者に対して契約内容を明らかにした書面を交付することが義務付けられており(訪問販売法第四条、第五条)、消費者は業者からこの書面の交付を受けてから八日以内であれば、無条件に申し込みを撤回または契約を解除することができる。これをクーリング・オフ制度という(同法第六条)。

 このように、クーリング・オフ権の行使期間は、書面の交付を受けた日から起算される。そこで、この書面が交付されなかったり、交付された書面が法の要求する記載を欠いていた場合にどうなるかが問題となる。これまでの裁判例では、書面を全く交付しなかった場合に、クーリング・オフ期間が進行しないとしたもの(参考判例(1)、(2)参照)、契約書面が交付されたが、訪問販売法所定の記載事項の一部に欠落があった場合にも、クーリング・オフ期間が進行しないとしたもの(参考判例(3)参照)などがある。

 本件は、売買契約の際、消費者に対して目的物の鑑定書・保証書が提示されたにとどまり、売買契約から二ヶ月ほど経って鑑定書・保証書が消費者の下に送付されたという事件である。本判決は、本件売買契約締結の際、消費者に対して鑑定書・保証書を提示しただけでは書面の交付に当たらないとし、また、売買契約から二ヶ月ほど後に鑑定書・保証書を送付しても、遅滞なく交付したわけではないから、書面の交付に当たらないとした。「交付」およびその「時期」という側面から、遅滞なく交付する(訪問販売法第五条)という要件を欠いたという判断である。本件鑑定書・保証書が訪問販売法所定の記載事項を充たした「書面」に当たるかという側面から問題を捉えることもできるが、本判決は、この点は問題としていない。

 なお、悪質な「内職・モニター商法」や「マルチ商法」による消費者トラブルが急増していることなどに対応するため、「訪問販売等に関する法律(いわゆる訪問販売法)」が改正されるが(平成十三年六月施行)、名称も「特定商取引に関する法律」となる。



参考判例

  1. (1) 訪問販売による印鑑の購入にあたって、妻が夫名義でクレジット契約を締結したが、代金の支払請求に対して、契約から約二年後になされたクーリング・オフの効力がクレジット会社に対しても効力があるとして支払義務が否定された事例(大津簡易裁判所昭和五十七年三月二十三日判決 NBL二七一号一九ページ)
  2. (2) 紳士録の訪問販売で、契約申込日から一年以上経過した後になされたクーリング・オフの権利行使が信義則に反するとはいえないとされた事例(神戸地方裁判所平成元年十月四日判決 NBL四七七号三五ページ)
  3. (2) 見本工事商法によるアルミサイディング工事契約に関して、工事着手後に行ったクーリング・オフと原状回復を求めて訴訟を起こしたところ、請求が認められた事例(東京地方裁判所平成五年八月三十日判決 判例タイムズ八四四号二五二ページ)


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