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[2001年3月:公表]
本件は、昨年社会問題になったいわゆる商工ローンの連帯根保証契約について、詐欺を理由に取り消しが認められた事例である。商工ローンについては多くの訴訟が起きているが、その1つの例として紹介する。(新潟地方裁判所平成11年11月5日判決 控訴 判例タイムズ1019号150ページ)
X:原告(貸金業者) Y:被告(個人) A:関係人(B社の代表取締役、Yの娘の夫) B:関係人(有限会社、Xの主債務者) C:関係人(Xの担当者)
Aは自己の経営するB社の資金繰りに窮し、平成十年六月九日、かねて借り入れをしていたXの担当者であるCに対し、電話で二百万円の借り入れを申し込んだが、断られたため、翌十日、再度、Cに電話でAの妻の父であるYを保証人とするので、借り入れをしたい旨を伝えたところ、Cは、Yが千五百万円の根保証をするのであれば借り入れに応じてもよいと答えた。B社はこの時点までにXから計千四百八十八万円を利息年二九.二%、遅延損害金四〇.〇〇四%で借りていた。
しかし、Aは、B社が平成八年十月に別の業者から二百万円を借り入れた際および平成十年三月にさらに別の商工ローン会社から百五十万円を借り入れた際、いずれもYに連帯保証してもらっている上、Yから九十万円借りていることもあり、既にXに対して多額の債務を負担していることを告げれば、Yが根保証を応じることはありえないと判断し、Yに対し、二百万円の新規の借り入れの保証と偽って保証を依頼することにした。
そこで、Aは、平成十年六月十日、Yに対し、電話で二百万円の保証を依頼したところ、Yは、Bの経営が苦しいことを察知していたことや、既に二回保証人となっていることから、いったんは保証を断ったものの、Aが娘の夫であることや、二百万円なら最悪の場合でも妻名義の簡易保険を解約すれば支払えると考え、しぶしぶ保証を承諾した。
Aは、同日夜、CとともにY方に赴いたが、その玄関先において、Cに対し、本件契約が根保証であることや、B社のXに対する既存債務の残高を言わないでほしい旨依頼し、Cもこれを了承した。
Cは、本件契約の締結の際、極度額を千五百万円とする限度付根保証承諾書および連帯根保証確認書、額面千五百万円の約束手形等を差し出し、Yに署名・押印を求めたところ、Yは、千五百万円の根保証を求められていることに気づいて署名・押印することを躊躇し、約二、三十分間にわたって、沈黙が続いたが、結局、Yは、これらの書類に署名・押印した。
しかし、AおよびCは、本件契約の締結の際、B社のXに対する債務の残高については、何ら説明をしなかった。また、Yが押印した書類のうち、領収書には、同日実行された五百五十万円の貸し付け後の総融資残高が二千三十八万円である旨の記載があったが、Yは、これに気付かなかった。
XがYに千五百万円の連帯根保証債務の履行を求めたのに対して、Yは、本件契約は二百万円の貸し付けについての保証をしたものであると主張するとともに、第三者(A)の詐欺についてのCの悪意を理由とした詐欺取り消し、および錯誤無効を主張した。
Cは、Y方の玄関先において、Aから「既存債務の残高を言わないでほしい」旨言われたが、これを断わり、借用証書の総貸付残高欄を示して、B社の債務は、同日実行された五百五十万円を引くと、千四百八十万円くらいである旨説明したと供述するが、AおよびYは、このような説明はなかった旨供述しているところ、B社の経営状態が苦しいことを察知していたYが、このような多額の債務があることを知りながら、あえて千五百万円もの多額の保証をするとは通常考え難く、仮に保証したとすれば、契約前にAらによる、相当の説得活動があってしかるべきであるが、そのような活動がなされた形跡はないこと等に照らして、Cの右供述は信用し難い。
また、Xは、前記借用証書と複写式になっている領収書の総融資残高欄に二千三十八万円と記載されているところ、この欄の上部にYが実印で確認印を押捺しているから、Yは、債務の残高を認識していたと主張するごとくであるが、右領収書には多数の記載事項があり、注意して見なければ、残高欄の記載には気付かないと思われるし、Cも、「Yに債務の残高を確認してもらったことを裏付ける書面はない。」と、右領収書に基づく説明はしていない旨の供述をしていること等に照らして、Xの右主張事実は前記判断を左右するものではないというべきである。
Aは、本件契約の締結の際、B社の債務が千四百八十八万円と多額に上っているのに、これをYに告知することなく、新規融資の際の保証であるように装い、Yを誤信させて、本件契約を締結させたもので、Xの担当者CもこのようなAの意図を知っていたものと認められる。
したがって、Yは、本件契約を第三者の詐欺を理由に取り消すことができると解すべきところ、仮に、債務が多額に上っていることをYが知っていたとすれば、二百万円の保証もしなかったと考えられるから、本件契約は、二百万円を超える部分のみならず、その全体において瑕疵があるというべきであり、Yの取り消しの意思表示により、その全部が無効になると解するのが相当である。
1 いわゆるサラ金業者がサラリーマンや主婦、学生といった消費者個人に融資するのに対して、商工ローンは企業や事業者に融資する。ただし、商工ローン問題が従来の「サラ金問題」と大きく異なっている点は、保証契約が根保証になっており、保証人の責任がきわめて重くなっている点である。
根保証とは、融資者と主債務者との間の継続的融資取引から生じた過去及び将来の債務をすべて保証するというものであり、保証責任の限度が金額で定められているもの(限定根保証)と無限定のものがある。継続的な融資取引において債務者の保証を行う場合に、根保証をすることには一定の合理性があるが、根保証には、通常の保証がはらんでいる保証の情義性から生じる種々の問題に加えて、保証人が予想もしない額の保証責任を負わされるおそれがあるという問題がある。個人が事業者の保証人になるにあたって、根保証についての説明がなされないままに、一定金額の借り入れの保証を頼まれたつもりが、過去の借り入れ債務についても、また、将来の新たな借り入れについても、すべて保証することになっている例が多い。
2 仙台地方裁判所平成十一年七月十九日(参考判例(2))は、二百万円の融資の保証を依頼された保証人が五百万円の約束手形を振り出し、根保証限度額五百万円と記載された限度付根保証承諾書に署名押印して交付したという事例で、金額の五百万円の記載について商工ローンの従業員が保証人の責任は二百万円に限られると答えている事実を認定した上で、保証人の責任は二百万円の限度にとどまり、これを超える部分についての保証人の手形上の責任は原因関係を欠くとした。
これに対して、本判決は、交付された契約書や領収書の記載文言にとらわれることなく、主債務者の詐欺と債権者の悪意を理由に、二百万円の個別保証の額を超える部分についてのみならず、根保証契約の全部について詐欺取り消しを認めた画期的判決であり、今後の商工ローン被害者救済に大いに寄与するものと思われる。
商工ローン関係の裁判例として、以下を挙げる。