[本文へ] 消費生活・消費者問題に関する事例や対処方法を紹介しています。

現在の位置 : トップページ > 相談事例・判例 > 消費者問題の判例集 > スキー場内の死亡事故で管理者の責任を認めた事例

[2001年1月:公表]

スキー場内の死亡事故で管理者の責任を認めた事例

 本件は、スキー場の転落死亡事故で、スキー場および橋の管理者である地方公共団体の責任が認められた事例である。(東京地方裁判所平成10年2月25日判決)

  • 判例時報1662号98ページ、判例タイムズ984号135ページ
  • 控訴(後上告)

事件の概要

X1、X2:原告(いずれも死亡したAの両親)
Y:被告(地方公共団体、スキー場及びAの転落した橋の設置・管理者)
A:関係人(事故当時二十一歳の大学生で、スキーコースを途中から転落、死亡した者)

 A(Aのスキーの技術は、ウェーデルンがきれいにできるほどではないが、パラレルターンによる滑走であれば可能な程度であった)は、平成六年一月二十七日午前十時ころ、Yのスキー場(以下、本件スキー場という)のスカイラインコース(平成六年作成のゲレンデガイドでは中級者から上級者向きとされていた。以下、本件コースという)を滑走中、コース途中の橋(以下、本件橋という)の上でバランスを崩して、そのまま本件橋の北側の縁に向かって滑走し、同所に設置されていたスキーヤー転落防止用ネット(以下、本件ネットという)に肩から衝突した後、衝突による衝撃とAの身体の重みで本件ネットが外側にたわんだことによって生じた橋とネットとの隙間から転落し、約十一メートル下のジャンプ台の砂防壁上のガードレールに頭部を打ちつけ、さらに、砂防壁上の積雪に頭から突入したため、脳挫傷により死亡した。

 Aの両親であるX1、X2(以下、Xらという)は、次のとおり主張して、Yに対し、国家賠償法二条一項に基づき、それぞれ六千五百九十九万五千三百八十九円の内金四千二百五十万円の損害賠償の請求をした。

 すなわち、本件橋は、国家賠償法二条一項の「公の営造物」に該当するということ、スキーヤーが滑走中、橋から転落した場合に、砂防壁に激突して死亡する危険があったこと、コースは、スキーヤーが橋に入った途端に加速度が大きく変わり、体のバランスを崩しやすい上、橋上の部分の滑走面の整備不良による段差によって足を取られやすい状況にあったことからすると、本件橋上にはスキーヤーの転落防止のための十分な設備を整える必要があった。しかし、橋上のネットは、十分な強度を持ったものではなく、編み目は荒く破けやすいものであった上、ガードレールの外側に容易に膨れるようになっており、到底スキーヤーの転落防止に耐え得るものではなかった。よって、Yの「公の営造物」の設置・管理には瑕疵があると主張した。

 これに対し、Yは、橋の設置・管理に瑕疵はなく、事故は、Aのマナー、ルールに反した異常な滑走によるものとして、Xらの主張を争った。

なお、本判決について、Yは控訴をし、Xらも附帯控訴をしている。



理由

1.設置・管理の瑕疵

 本件橋の部分は、自然の地形を利用したスキーコースではなく、尾根と尾根とを架橋するために人工構造物である橋を設置し、スキーコースとしたものであり、それゆえ、橋の両側は山肌が自然の傾斜をもって下っていく地形ではなく、橋げたの下まで空間となって、垂直に落下する状態になっており、特に、Aが落下した北側の縁からは、斜め下に位置するジャンプ台の滑走開始地点までは約十一メートルの落差があり、北側の縁のほぼ真下には砂防壁上に設置されていた鉄パイプ製のガードレールが雪面上に出ている状態で存在していたのであるから、スキーヤーが橋の北側の縁から転落した場合には、右鉄パイプ製のガードレールや積もっている雪面に落下による強い衝撃をもって衝突することにより、生命・身体に重大な危険が生じる可能性があることは容易に予測できたところである。

 加えて、一般的にスキーヤーが高速で滑走することにより、あるいは、スキーヤー同士が衝突しまたは衝突することを避けることなどにより、身体のバランスを崩し、制御不能の滑走状態になることも容易に予測し得るところであり、さらに、橋の手前のコース部分から橋に入る際には、滑走幅が従前の三分の二に減少して約十メートルと狭くなること、傾斜度も急に変化していることから、橋の手前のコース部分から橋に入ったスキーヤーが、身体のバランスを崩し、滑走を制御できない状態で、滑走幅が狭いために橋の縁に衝突する危険性を具体的に予測できたといわなければならない。そして、本件事故当時、橋の両側部分に設置されていたガードレールは、積雪により大人のひざぐらいの高さしかなかったのであるから、スキーヤーが橋の縁に衝突した場合には、衝突の勢いによりガードレールを乗り超え、ガードレール上に転落防止のために設置されていたネットに突っ込む可能性は大きかったのであるから、ネットは、スキーヤーによる衝突による衝撃を支えて、スキーヤーが橋の両側から転落することを防ぐ強度を備えておく必要があったといわなければならない。

 しかるに、ネットは、最上部が約三メートル間隔に立てられていた支柱のフックに掛けられ、最下部がガードレール四段目下部の支柱部分にビニールひもで結び付けられていたのみで、支柱の中間部や支柱と支柱の間では結束されておらず、風によっても内側または外側にたわむような状態であり、Aのネットへの衝突による衝撃と身体の重みを支えきれずに外側にたわみ、Aはネットとガードレールの間にできた隙間から転落してしまったのであるから、ネットは、橋上を滑走中、ネットに衝突したスキーヤーの転落を防止するための防護設備としては極めて不十分な状態にあったことは明白であり、本件橋は、スキーコースに要求される通常有すべき安全性を備えておらず、設置・管理の瑕疵があったといわざるをえない。

2.過失相殺

 スポーツに一般的に内在する危険性については、本来、自己の判断、技術により予見し、これを回避することが原則であり、スキーコースを滑走するスキーヤーについても、自己の滑走しようとするゲレンデの状況等を把握し速度を調整するなどして事故の発生を未然に防止すべき注意義務を負うものというべきである。

 Aにおいてスキーを制御できない状態に至らしめたことはAの過失によるものというべきであるが、意外にも死亡という最悪の事態に至った最大の原因は、Yにおいてスキーヤーが約十一メートル下にまで直接落下する危険性をはらんだ人工構造物である橋を設置し、スキーコースとして利用に供しながら、しかも、スキーヤーがスキーを制御できなくなって落下する危険性があることを具体的に予見できたにもかかわらず、スキーヤーの転落防止に備えて十分な安全性を有する防護ネットを設置しなかった点にあるというべきであり、そして、橋の部分に十分な安全性を有する防護ネットを設置することは高額な費用がかかるものではなく、容易に設置できたことなどの事情を併せ考慮すると、過失割合として損害額の二〇%を減額するのが相当である。(認容額X1、X2に対し、各自三千四百七十二万円余)



解説

本判決は、公設スキー場における死亡事故に関し、管理者である地方公共団体の国家賠償法二条一項(営造物責任)に基づく損害賠償を認めたものであり、スキー場の管理者の設置・管理の瑕疵を認めたものとして事例的意義を有する。

 また、スキー場における営造物責任、土地工作物責任が問題となる事案では、一般的にはスキーヤーの自己責任の見地から過失割合が高くなりやすいといわれるが、本判決は、Aの過失を認めながらも、死亡事故をもたらした最大の原因はYによる橋の設置・管理の瑕疵にあったとして過失相殺割合を二〇%に止めている点で参考となる。

 なお、本件控訴審判決である東京高等裁判所平成十年十一月二十五日判決(判例時報一六六二号九六ページ、判例タイムズ一〇一六号一一九ページ)は、Aには滑走コースの状況の変化に対応して、危険を回避するため、滑走の速度を落とすなどして自己の技量に応じた無理のない滑走をし、危険個所を通過するように務めるべき注意義務に違反した相当大きな過失があったとして六割の過失相殺をし、一審の認容額を減額している。



消費者問題の判例集トップページへ

ページトップへ