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[2000年12月:公表]

美容整形外科手術の過誤

 本件は、美容整形外科手術で被害者側が勝訴した事例である。(東京地方裁判所平成9年11月11日判決)

  • 判例タイムズ986号271ページ
  • 確定

事件の概要

X:原告(被施術者)
Y:被告(美容整形外科・形成外科医院を経営する医師)
A:関係人(Y医院の本件手術の執刀医)
B:関係人(Y医院におけるXの診察医))

 X(昭和四十年生まれの女性)は、平成三年に外国において、両眼瞼を二重にする美容整形手術を受けていた。しかし、Xは、その結果左右の二重の幅が広くなりすぎ、また、特に左眼瞼の二重の幅が右眼と比して広く、左右差が残ってしまったと考え、これを修整するため、平成五年十月二十三日、Yの経営する病院(Y医院)に赴き、Yとの間でXの両眼瞼を整形する旨の診療契約を締結した。

 XはYに対し、手術費用等として五十三万円程、感染症検査代三万円程を支払い、同月二十七日Y医院において、Y立ち会い、Y医院のA医師の執刀による「トータル切開法」による両眼瞼を修整する美容整形手術を受けた。

 しかし、二重瞼を修整する手術は、単なる瞼の手術よりも格段に困難なものであり、Xの両眼瞼の二重の幅が狭くなることはなく、左眼瞼の睫毛が外反する結果となった。

 Xは、次の内容のYに対する損害賠償の訴えを提起した。

 美容整形手術にあっては、緊急性がなく、手術の必要性自体が患者の主観的意図に基づくことが多いのであるから、医師は、手術の難易、成功の可能性、他の部位に及ぼす影響等について十分に説明すべき注意義務がある。Yは、これに違反して、Xに対し、本件手術前に、本件手術が困難なものであるとか、手術の結果、元に戻ってしまう可能性があるなどという説明を全くせず、本件手術の術式の説明のみをしてXの希望に添う結果を請け負ったため、XはYの言を信じて本件手術を受けることにした。

 したがって、XはYには説明義務違反があるとし、この他診察上の誤り、施術決定の誤り、術式選択の誤り、施術の失敗を主張し、債務不履行責任または不法行為責任に基づき、Yに対し、六百五十六万円余り(手術費用等五十六万円余りと、慰藉料九百三十万円の内金六百万円を合計した額)の損害賠償を請求した。



理由

1.説明義務違反

<1>生命、健康の保持等を目的とするのでなく、単に、より美しくなりたいという施術依頼者の願望に基づいて実施される美容整形手術においては、身体に対する侵襲を伴う施術を実施し得る根拠は、専ら施術依頼者の意思にあり、したがって当該施術を行うかどうかの決定は、ひとえに依頼者自身の判断に委ねられるべきものである。したがって、美容整形手術の依頼者に対し、医師は、医学的に判断した当人の現在の状態、手術の難易度、その成功の可能性、手術の結果の客観的見通し、あり得べき合併症や後遺症等について十分な説明をした上で、その承諾を得る義務があるといわなければならない。

<2>もとより、右説明は、必ず口頭でされなければならないものではなく、必要な説明が記載された書面を依頼者に閲読させることによっても不可能ではないが、専門的知識を有しない通常の施術依頼者に対しては、説明を要する事項について十分な理解が得られるように、率直、かつ分かりやすい説明を工夫すべきものであり、単に注意義務を列挙した書面を交付するだけで事足れりとすることはできない。

 Yは、Xに本件手術の説明をするに際し、それが極めて困難な手術であって、手術の結果も術前の状態に戻ってしまう可能性があるとか、Xの希望に添うためには数度の施術を必要とする場合もあるとか、さらには、本件のような結果を生ずることもあるとかといった本件手術の危険性に関して、口頭で具体的に平易に説明することをしなかった。

 Y側がXに対して見せた書面のうち、「術前注意事項細目」には、なるほど、本件手術の危険性を指摘しているとみることのできる部分があるが、当該部分は、医師に必要なカルテとしての記載やXが受けた本件術式とは異なる他の各種術式等に関する記載等の間に混在しており、書式の点でも、字間、行間が狭い中に、微細な文字で、多種、多様な項目にわたる一般的記述が、専門的用語も含めてぎっしりと記載され、一般には、煩瑣な記載の羅列といった印象を与える形態となっているのであり、Bも、単に、これをXに渡して署名、押印を求めたにとどまり、他にも、Xに対する口頭での補足説明や注意喚起が特になされた形跡はない。

 これを受領したXは、同書面をよく読みもしないで、Bの指示した箇所に署名、指印をしたものであって、結局、Xは、本件手術の前記危険性について十分な説明を受けないまま、診察時のYの術式等の説明ぶり等から安心してしまい、本件手術の危険性に思い至ることなく、本件手術を依頼したものと認められる。

 したがって、本件においては、Xに対し、本件手術の危険性に関する説明を尽くさなかった違法があるというべきであり、X本人の供述によれば、Xは、右危険性の説明を受けたならば、本件手術を依頼しなかったことが認められるから、その余の点について判断するまでもなく、Yには、本件診療契約上の債務不履行があり、本件手術の実施によってXに生じた損害を賠償する責任がある。

2.過失相殺

 Xは、Y側から、本件手術が非常に困難な手術であり、施術の結果元に戻ってしまう危険性のあること、一度の手術のみでは希望どおりにならない可能性のあること等の本件手術の限界が記載された書面を見せられたにもかかわらず、これを読まずに本件手術を受けたものである。

 右の点は、損害額の算定にあたりXの過失として斟酌するのが公平に適するというべきであり、その割合は全損害の一割とするのが相当である。(認容額百四万円余)



解説

本件は、美容整形手術における医師の説明義務違反が問題となった医療過誤事件の判決である。

 ところで、一般的に患者は、医師からその病状、当該治療行為の内容、当該治療による改善の見込み、当該治療を選択しなかった場合の予後、代替治療方法の有無等について十分な情報を得て、当該治療を受け入れるべきか否か、治療の中止を求めるか否かについての自己決定権を有している。そして医師の説明義務はこの患者の自己決定権から導くことができる。いわば患者の自己決定権と医師の説明義務は表裏の関係にあるといってよい。

 医師の説明義務の法律上の根拠としては、診療契約上の付随義務として構成されたり、医療行為としての不法行為の違法性の阻却要件として問題とされる。しかし、最も問題となりうるのは、どのような医療行為について、どのような内容、程度の説明義務が医師に課せられるかであろう。一般的には医療行為の必要性及び危険性によって決まるということができる。この点で、生命、健康の維持、回復を直接の目的としない美容整形手術については、一般の手術などよりもより具体的な分かりやすい説明義務が医師に生じよう。

 本件判決も、この点につき、[理由]1.説明義務違反<1>のように判示し、また、右説明は、必ずしも口頭でなされなければならないものではなく、書面を閲読させることでなし得るが<2>のように判示して、具体的で、平易な説明義務を認めている。

 本件では、手術の限界や合併症の危険性に言及した書面をXに見せた事実を認定しながら、その記載の形態や見せた状況などから、医師の説明義務違反を認定した事例として参考になろう。



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