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[2000年7月:公表]

盗難カードの不正使用と被害者の支払義務

 本件は、銀行と顧客との間のカードローン契約に基づいて顧客がカードの貸与を受けて保管中、駐車中の車から右カードが盗まれてATMから金銭が引き出された事案で、金銭消費貸借契約の成立は否定したが、カードの盗用について顧客の注意義務違反を認め、本件特約に基づき、顧客が本件カードの盗用によって生じた銀行の損失をてん補する債務を負うとした事例である。(福岡高等裁判所平成11年2月26日判決)

  • 金融法務事情1546号97頁
  • 上告棄却

事件の概要

X:原告(保証会社、被控訴人)
Y:被告(個人、控訴人)
A:関係人(銀行、Xの補助参加人)

 Yは、平成八年八月八日午後五時ごろから午後六時五十分ごろまでの間、福岡市所在のパチンコ店の立体駐車場内に自家用車を駐車して施錠し、パチンコをしていた。車を離れる際、Yは助手席側後部座席の足下にセカンドバッグを手提げバックと共に置いたままにしていたが、車外から車内をのぞけば、右バッグが見える状況にあった。その中にはA銀行のカードローン用カードを含む数枚のカードや預金通帳数冊、実印等が入っていたが、Yはそれらカードの暗証番号に自分の生年月日を用いていたが、右数字を確知しうる運転免許証を運転席のサンバイザーの裏側に挟んだままにしていた。

 車に戻ったYはバッグがなくなっていることに気付き、すぐに警察に盗難届を提出し、翌八月九日午前十時ごろには、Aの支店を訪れて、本件カードが盗難にあった旨を申告したが、その間に何者かによってA銀行本店のATMで右カードが使用されて二回にわたって九十九万余円、その他のカード等によるキャッシングにより、本件を含めて四件合計三百七十万円が引き出され、その他クレジットカードにより八十万円相当の買い物がされた。そこで、A銀行とYとの間のカードローン契約につきYの委託を受けて連帯保証したX保証会社が、右カードによる借り入れについて代位弁済後、Yに対し求償権に基づく訴えを提起した。なお、右カードローン契約には、A銀行が同人に提出された書類の印影(または暗証)を、届出の印鑑(または暗証)に、相当の注意をもって照合し、相違ないものと認めて取引したときは、書類、印章等について偽造、変造、盗用等があってもそのために生じた損害についてはカード契約者の負担とする旨の特約(以下「本件特約」という)が付されていた。一審判決(福岡地方裁判所平成十年十月二十一日判決 金融法務事情一五四六号一〇七頁)は、Yの借り入れを否定したが、本件ローン契約に基づく債務の保証の範囲内には本件特約に基づく債務も含まれるとした上、Yの本件カードの保管には善管注意義務違反があるのに対し、本件カードによる貸し付けについてA銀行に過失があるとは認められないとして、Xの請求を認容した。そこで、Yが控訴して一審判決の取り消しを求めた。



理由

1.金銭消費貸借の成否:Xが主張する求償債権の原因となった貸金は、本件車から本件カードを盗取した第三者が、何らの権原もなしに本件カードを使用して、Aの現金自動支払機から現金を引き出したことによって、Aにおいて消費貸借契約が成立したと扱っていたものであるから、契約としては無効(不成立)といわざるを得ない。

2.本件特約の趣旨:本件ローン契約は、簡易迅速な金融の方法を許容し、顧客やAに相応の利益を与える反面、必然的に、カードの盗用等の不正な利用による損害や、通常の審査手続を経た貸し付けを上回る貸し倒れの危険を生じさせるものであるから、取引上の紛争の防止のため、これらの危険より生じた損失の負担についてAと顧客の間で約定する必要性があるところ、右の危険のうち、カードの盗用等によって生ずる危険の発生は、Aにおいてこれを防止する手段が乏しいのに対し、顧客の側がカードの暗証番号の管理を適正に行うことにより比較的容易に防止し得るものであることからすれば、右危険により生じた損害を顧客に負担させることには、十分な合理性があるというべきである。そうすると、Yは、本件カードが盗用されたことによるAの損害につき、少なくともYに本件ローン契約の債務不履行がある場合には、本件特約に基づき、右損害をてん補する契約上の債務を負っているものと解することが相当である。

3.本件保証契約に基づく債務の範囲:本件ローン契約に基づく債務の保証の範囲には、本件特約に基づき、本件カードの盗用等によって生じたAの損失をてん補する債務も含まれるものと解するのが相当である。

4.Yの注意義務違反の有無:Yは、不特定の者が出入りするパチンコ店の駐車場に、施錠はしたものの、通常貴重品類を入れるのに用いられるセカンドバッグを本件車の窓ガラス越しに外から見える場所に、本件カードのほか、他の多数のキャッシュカード等(カード六枚)や預金通帳(六冊)、実印等重要な品々と共に置いた上、本件カードその他のカードの暗証番号も、最も解読されやすい自分の生年月日の数字をそのまま用いているのに、右番号を確知しうる運転免許証も同車内で容易に発見できる場所に置いた状態で、本件車を駐車し、その場を立ち去ったというのであり、このような状態は、往々にして盗難を誘発するに足りるものであり、かつ、暗証解読を容易にして、本件のようなカードの不正利用を惹起しやすい危険な状況を作出したものということができる。これらのことを考慮すれば、Yが、右の善管注意義務を尽くしていなかったことが明らかである。

5.Aの過失:Aにおいてプライバシーとの関係から、個別の注意をしないとする取り扱いにも十分な合理性があると認められるから、Aが本件カードの暗証番号を生年月日以外の番号に変更するよう求めなかったり、本件カードの使用につき暗証番号のみを照合して取引に応じたとしても、Aに過失があるということはできない。



解説

本判決および福岡地裁平成十一年一月二十五日判決(判例タイムズ九九七号二九六頁、金融法務事情一五四六号九八頁)は、ともにカードローン用カードが窃取され、そのカードによって第三者に対してATMで貸し付けが行なわれたという事案である。同一の状況下でカードが窃取され、同一人物であるカード契約者が当該貸し付けについて責任を負うかが争われたが、本判決はカード契約者の責任を肯定したのに対して、福岡地判はこれを否定している。

 論点としては、(1)ローンカードの不正使用と保証会社の代位弁済の範囲(2)カードローン約款の解釈(3)カード契約者のカード保管上の注意義務などがある。

 (1)につき、本判決は、本件保証会社は本件カードローン契約に基づくカード契約者の銀行に対する債務を保証したのであるから、その保証の範囲には本件特約に基づきカードの盗用等によって生じた銀行の損失をてん補する債務も含まれるとした。しかし、銀行の損害をてん補する債務は、ローン契約のうちの当座貸越契約とは別個の契約に基づいて発生するから、この債務は保証会社の保証に含まれない、と考える余地があろう。

 (2)につき、両判決とも、銀行が使用された暗証と届け出の暗証との一致を確認して(実際にはATM機などによる)貸し付けを行った場合には、カードローン契約者が責任を負い、銀行は責任を負わないとした。ただし、本判決が免責条項をほぼ字義通りに解釈したのに対して、福岡地判は、無権限のカード利用による貸し付けについて、真正なカードが使用され、正しい暗証番号が入力された場合であって、カードローン契約者に帰責事由がある場合に、カードローン契約者が責任を負うとし、顧客保護の方向に沿った解釈をしている。

 (3)について、本判決はカード契約者のカード保管上の注意義務違反を肯定したのに対して、福岡地判はこれを否定した。もっとも福岡地判の控訴審である福岡高等裁判所平成十一年九月二十二日判決(金融法務事情一五六二号九三頁)は、カードの盗難につきカード契約者に帰責事由ありとして、原判決を取り消している。

 本判決は、Yが本件カードの保管について善管注意義務を負う理由として、カード契約者は銀行からカードの貸与を受けているにすぎないこと、本件カードの保管はカード契約者に委ねられていて銀行の管理が及ばないことなどを挙げているが、カードはその使用のために貸与されるもので保管を委任されているものではないから、委任契約の受任者の地位とは異なる。カードの安全性についてはカードを発行して収益をあげている銀行側の責任と見るべきであり、盗難の責任を安易にカード契約者に負わせることには賛成し得ない。



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