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[2000年3月:公表]

ジュースの中の異物による負傷と製造物責任

 本件は、ファーストフード店で購入したジュースを飲んだ際、その中に入っていた異物によって喉に傷を負ったとする事案について、製造物責任法第三条を適用し、メーカーの製造物責任を認め、合計10万円の損害賠償が命じられた事例である。(名古屋地方裁判所平成十一年六月三十日判決)

  • 判例時報1682号106頁
  • 控訴

事件の概要

X:原告(消費者)
Y:被告(ファーストフード会社)

 Xは、平成10年2月13日、同僚とともにY店舗において、昼食用にYの製造したダブルチーズバーガーセット(ダブルチーズバーガー、フライドポテト、オレンジジュース〈以下「本件ジュース」という〉がセットになって販売されていたもの)を、525円で購入し、Xの勤務先へ持ち帰った。

 Xは、本件ジュースを飲んだ後、吐血を理由に、Xの勤務先に隣接している診療所で診察を受け、さらに、救急車で国立病院へ運ばれ、診察を受けた。

 そこでXは、Yに対し製造物責任、債務不履行(売買契約における安全配慮義務違反)、不法行為に基づいて、右受傷によって被った精神的苦痛に対する慰謝料30万円及び弁護士費用10万円の各損害賠償、及びこれらの各金員に対する不法行為の日である平成10年2月13日から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを請求した。

 これに対しYは、Xが多量の出血を伴う傷害を負った事実はない(争点1)、直径約7ミリメートルのストローを通過するような異物は、故意でない限り混入することはあり得ない(争点2)、と争った。



理由

(争点1について)

 Xが吐血を訴えた直後にXを診察した医師が、救急車を呼んで、国立病院に受診するよう勧めていること、国立病院の医師も、喉頭ファイバースコープで粘膜の下に出血を認めて診断書を書いていることからして、Xは、右診断書記載の内容の受傷(以下「本件受傷」という)をしたと認められる。

 なお、Xに対し、喉頭の外傷に対する治療は行われていないが、喉の粘膜部分という部位の特性からして、国立病院での診察までに、切創部分が閉じてしまうこと、そのため、傷の治療が不要となることは十分考えられ、喉頭の外傷に対する治療がないことを以て、Xが本件受傷をした事実が左右されるものではない。

 また、Xの供述には、傷が左右どちらの喉頭であったか間違えたり、傷害の状態についてやや大げさに述べているとみられる部分も存在するが、Xの供述は本件受傷から1年後の供述であること、本件受傷当時、Xがショックで混乱していたことを併せ考えれば、Xの供述に右のような部分があることは、Xが本件受傷をしたこと自体を覆すような事情とはいえない。

(争点2について)

 (1)Xは、本件ジュースを飲んだ直後に、喉に受傷していること、(2)Yが本件ジュースを販売してから、Xがそれを飲むまでの間に、本件ジュースに、喉に傷害を負わせるような異物が混入する機会はなかったと考えられること、(3)Xは、本件受傷当時、歯科治療を受けておらず、また、ダブルチーズバーガーやフライドポテトをすべて食べ終わってから本件ジュースを飲んでおり、Xの口腔内にあらかじめ異物が存在していたとは考えられないことなどからすれば、本件受傷は、本件ジュースに混入していた異物を原因とするものと認められる。

 Yは、本件ジュースの製造工程からして、直径約7ミリメートルのストローを通過するような異物が混入することはあり得ないと主張するが、製造工程からするとコンクジュースをオレンジジュースマシン内の容器に入れる際や、保存庫から氷をすくう際などに、異物が混入する可能性は否定できないのであり、Yの主張は採用できない。

 そして、本件ジュースに、それを飲んだ人の喉に傷害を負わせるような異物が混入していたということは、ジュースが通常有すべき安全性を欠いていたということであるから、本件ジュースには製造物責任法上の「欠陥」があると認められる。

(損害について)

 Xは、本件受傷後、吐血し、医師により、救急車で国立病院へ運ぶのが相当であると判断されるほどの状態であった。

 また、国立病院においては制吐剤等の点滴を受けており、本件受傷により、相当なショックを受けたものと認められる。そして、胃十二指腸ファイバースコープによっても異物が発見されず、検査のために持参した本件ジュースも捨てられて、原因の解明が十分されなかったことに鑑みると、国立病院から帰った後も、不安感と恐怖感が残り、2日間自宅で安静にしていたというのも理解できないわけではない。

 以上のとおり、原告は、本件受傷により、相当な精神的、肉体的な苦痛を被ったものと認められ、これに対する慰謝料としては5万円が相当である。

 本件と相当因果関係のある弁護士費用分の損害は、5万円と認めるのが相当である。



解説

本件は、Yの製造・販売したジュースを飲んだ際、その中に入っていた異物によって喉に傷を負ったとする事案につき、製造物責任(PL)法第三条を適用してメーカーの製造物責任が認められた画期的なPL法適用第一号判決である。

 被告のメーカーは、安全対策は十分取っているので、異物は原告の口腔内にあらかじめ存在していた、そもそも異物が発見・特定されていない、原告の受傷の証明も不十分だ、などとして争ったが、裁判所はジュースの製造工程、販売、飲食の経過を詳細に認定した上で、「ジュースに異物が混入する可能性は否定できない」とし、「ジュースが通常有すべき安全性を欠いていたということであるから、本件ジュースには製造物責任法上の『欠陥』があると認められる」と判断した。

 なお、右異物は発見されず、結局異物が何であったかは不明なままであるが、判決は「(恐らく、Xが胃の内容物を嘔吐した際、異物も吐き出したものと考えられる上、本件ジュースも検査されないまま捨てられてしまったのであるから、これ以上、Xに異物の特定を求めることは酷である)それがいかなるものであろうと、ジュースの中に、飲んだ人に傷害を負わせるような異物が混入していれば、ジュースが通常有すべき安全性を欠いているものであることは明らかであるところ、本件ジュースに、それを飲んだ人の喉に傷害を負わせるような異物が混入していたという事実(本件ジュースに「欠陥」が存在したこと)自体は明らかである以上、異物の正体が不明であることは、右認定に影響を及ぼさない」と明快に判示した。

 本件にみる被告の争い方は、従来からよくみられる。これに対して原告が結局立証を尽くせず敗訴することが多かった。

 これまで原告被害者の立証負担は重すぎた。しかし、製造物責任法が成立し、事実上の推定を活用するなどして被害者の立証負担を軽減すべしとの国会審議における政府答弁等からして、本件のような判決が待たれていた。裁判所にも製造物責任法の趣旨が浸透してきたともいえよう。

 被害者勝訴判決を見ると、いずれも被害者自身が事故直後に医師の診察を受けるとか証拠を保存するなど、(敗訴判決と比較して)裁判所の判断に資するだけの手立てを尽くしていることが見て取れる。

 本件は、請求金額40万円に対し、慰謝料5万円、弁護士費用5万円合計10万円の認容ではあるが、理由の判断は製造物責任の発想に基づき、事実上の推定を活用した判決といえる。



参考判例

東京地方裁判所 平成十一年八月三十一日 判決
判例時報一六八七号三九頁、判例タイムズ一〇一三号八一頁(業務用冷凍庫からの出火につき、メーカーの過失を認めた事例)、その判決の解説は、2000年1月掲載文



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