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[2000年2月:公表]

窓手摺脱落による転落事故

 本件は、居住建物の2階窓枠から手摺が外れたため地面に落下して頭蓋骨骨折等の重傷を負った男性が、本件事故は手摺の取り付け強度が不十分であったためであるとし、民法七一七条により建物所有者に対し、損害賠償を求めたところ、本件窓枠と手摺の接合部分の設置方法では転落防止には不十分な強度であり、通常有すべき安全性に欠けていたとして、建物所有者の工作物責任を認めた事例である。(東京地裁平成九年四月十五日判決)

  • 判例時報1631号96頁
  • 控訴

事件の概要

X:原告(個人、本件窓手摺の取り付けられていた建物の居室に居住していた者)
Y:被告(建物所有者)

(関係人)
A:本件建物工事の請負人
B:窓枠・手摺工事の下請人
C:手摺の製造業者

 Xは、東京都のY所有建物(本件建物)2階205号室(本件居室)に居住していた者である。Xは、平成2年8月6日午後10時ごろ、本件居室の和室東側窓の窓枠から手摺(本件手摺)が外れて地面に転落し、頭蓋骨骨折等の重傷を負い、痴呆、失見当識等の知能傷害(厚生年金法上の傷害等級三級一四号)後遺症を残した。

 Xは、本件事故は、本件窓の手摺の強度が取り付けビスの強度不足等の原因により不十分であったため、Xが窓枠に腰掛けた際に手摺が窓枠から外れたことによって生じたものであるので、土地工作物である本件建物の設置、保存に瑕疵があるものとし、民法七一七条に基づき、建物所有者であるYに対し、損害賠償請求(請求額6,671万余円)の訴えを提起した(なお、本件訴訟には、施主であるYとの間で請負契約を締結し、本件建物の手摺工事を含む設計施工を行ったA、Aとの間で窓枠工事及び手摺工事の下請契約を締結し、同工事を施工したB、手摺の製造業者CがYに補助参加している)。

 これに対し、Y、A、B、Cらは、本件手摺が外れた原因はXの異常な加重行動にあり、本件建物の設置、保存に瑕疵はない、としてこれを争った。

理由

1.Xは、当時の記憶に基づいて話をする能力を全く失っていることから、本件事故当時、Xが本件窓付近でどのような行動をとっていたのかを特定することは困難であるが、水割1、2杯程度の晩酌を日課としており、事故直後本件居室に酒瓶が数本置かれ、本件窓の正面にあったテレビの電源がついたままになっていたことから、事故当時、Xは飲酒しながら窓付近でテレビを見ていたものと推認できる。

2.本件事故により、本件手摺が取り付けられていた本件サッシのビス孔部分は、いずれも外側に膨れるように変形して破壊され、室内から見て左側の取り付け金具のビス3本及び手摺下胴縁ビス6本が完全に脱落し、本件手摺は、右側の取り付け金具のビス3本によってぶら下がる状態となっていた。

3.鉛直荷重試験により窓枠と手摺接合部分の強度測定をしたところ、18キログラム重から変形が始まり、最大荷重116キログラム重で取り付け金具のビスが脱落してサッシが変形し、衝撃距離40センチメートルから室内側の笠木側面に75キログラム重の砂袋を自由落下させ、振子式衝撃を一回加える衝撃試験で取り付け金具のビスが抜けた。

4.Xが、本件事故当時、本件窓及び本件手摺をどのように使用していたかは明らかではないが、本件事故は本件手摺が窓枠から外れてXが転落したものである。本件手摺は、本件窓から人が誤って転落するのを防止する目的で設置されたものであるから、本件手摺に人がもたれかかるなどの荷重がかかることは通常予想される。しかし、本件窓の窓枠と手摺接合部分の強度は、厚さ約1ミリメートルのアルミ板である本件サッシに深さ0.25ミリメートルのネジ山をつけるだけで、本件手摺を設置したため、前記3の強度しかなかったもので、右設置方法では、転落を防止するには不十分であったというべきであるから、本件手摺の設置ないし保存状況は、転落防止目的において通常有すべき安全性に欠けるものであった。したがって、土地の工作物である本件建物の設置保存の瑕疵が認められ、YはXの損害を賠償する責任がある。

5.本件手摺笠木部分には、Cが「お願い 落下防止のためこの手摺に乗らないで下さい(特にお子様には十分注意して下さい)この手摺にロープやハシゴ等を掛けないで下さい」と記載された約15センチメートル長のシールを貼付し、利用者の注意を促していたことを斟酌すると、Xにも過失があったといえ、本件事故の主原因が本件手摺の設置強度不足であることも総合するとXの過失割合は2割である。(認容額3,354万余円)

解説

本件は、民法七一七条の建物所有者の工作物責任の事案である。製造物責任法に基づく事案ではないが、窓枠と手摺の接合部分の設置方法では転落を防止するのに不十分な強度であったので転落防止目的において通常有すべき安全性に欠けるものであったとして、手摺の欠陥を認めており、製造物責任法における欠陥の判断についても参考になると思われる。

 製造物責任法では、「欠陥」の定義として「通常有すべき安全性を欠いていることをいう」としたうえ、欠陥判断の考慮事情として、「通常予想される使用形態」を挙げている。本判決は、「本件窓の形状に鑑みると、本件手摺は、本件窓から人が誤って転落するのを防止する目的で設置されたものと認められるから、本件手摺に人がもたれかかるなどの荷重がかかることは通常予想されるところである」として、通常予想される使用形態を考慮したうえ、「本件手摺の設置ないし保存状況は、右転落防止の目的において通常有すべき安全性に欠けるものであったと認められる」としている。本判決の瑕疵の判断方法は、製造物責任法の欠陥判断と共通するものである。

 なお、製造物責任法の対象は動産に限られ、不動産は除かれるところ、窓の手摺は、不動産に取り付けられても同法の対象となると考えるにしても、本件では、C社製のサッシの取り付け部分の板厚に同社製の窓枠直付け用手摺取り付け部品によって、右手摺を固定するよう設計され、カタログでも使用できる部品が指定されているところ、手摺の取り付け工事を行ったBの担当者が、指定外の部品をドリルでサッシに穴を開けて取り付けたもので、本件では、この取り付け方法が問題とされているため、同法の対象となるかは問題であろう。

 なお、本件では、居住建物(おそらくアパートであろう)の居住者が、民法七一七条に基づき、建物所有者(おそらく賃借人であろう)に対し、損害賠償責任を追及した事案であるが、同条一項は、その本文で工作物の瑕疵により、他人に損害を与えたときに、第一次的に建物占有者に責任を負わせ、占有者に過失がない場合に、ただし書きで所有者に責任を負わせたものであるから、ここでの「他人」に占有者を含み、占有者が所有者に同条一項に基づき損害賠償請求できるかは、議論があろう。

参考判例

(土地の工作物責任を認めた事例)

(1)横浜地裁 昭和四十五年四月二十五日 判決 判例時報六一二号六八頁
(2)東京地裁 昭和五十五年四月二十五日 判決 判例時報九七五号五二頁
(3)浦和地裁 昭和五十七年五月十九日 判決 判例時報一〇六六号一〇六頁
(4)東京地裁 昭和五十八年五月二十七日 判決 判例時報一〇九六号八三頁
(5)浦和地裁 昭和五十八年六月二十二日 判決 判例時報一〇八九号八六頁
(6)東京高裁 昭和六十一年九月二十五日 判決 判例時報一二一一号五二頁
(7)横浜地裁 平成三年三月二十五日 判決 判例時報一三九五号一〇五頁
(7)東京高裁 平成三年十一月二十六日 判決 判例時報一四〇八号八二頁((7)の控訴審判決)
(8)大阪高裁 平成五年四月十四日 判決 判例時報一四七三号五七頁
(9)東京地裁 平成五年七月二十六日 判決 判例時報一四八八号一一六頁

(責任を否定した事例)

(10)千葉地裁 昭和四十六年三月九日 判決 判例時報六四二号五一頁
(11)東京高裁 昭和四十九年十月二十八日 判決 判例時報七六六号五一頁((11)の控訴審判決)