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[2000年1月:公表]

冷凍庫からの出火と製造物責任

 本件は、業務用冷凍庫からの出火につき、メーカーの過失が認められ、合計約900万円の損害賠償が命じられた事例である。(東京地方裁判所平成十一年八月三十一日判決)

  • 判例時報1687号39頁
  • 確定

事件の概要

X1:原告(飲食店経営者)
X2:原告(X1の妻)
X3:原告(X1、X2の娘)
Y:被告(メーカー)

 X1、X2及びX3は、X1が福島県いわき市内において経営していた飲食店において平成3年7月に発生した火災につき、(1)本件冷凍庫は、鋼鉄製であり、本来外部からの火で燃える蓋然性の低いものであるのに冷凍庫それ自体が焼損していること、(2)本件冷凍庫が置かれた場所とその裏側に当たる本件板壁の焼損の位置が対応する関係にあり、かつ、右板壁の部分が他の個所に比べて焼損の程度が著しいこと、(3)本件冷凍庫内部の背面に近い始動リレー、過負荷リレーの焼損状況よりも右の背面から、より遠い本件サーモスタットの焼損状況が激しいこと、すなわち、冷凍庫の内側からの火により焼損が広がっていったとみられること、(4)本件冷凍庫から発火すること及び本件板壁に着火することについて論理的可能性があること、(5)本件冷凍庫と冷却機能という点で類似する冷蔵庫からの発火による火災が毎年複数件みられること、(6)本件火災にはその他の原因は見当たらないこと、などの間接事実が認められるのであるから、本件火災は本件冷凍庫を発生源とするものであるとして、Yに対し、安全な電気器具製品を設計、製造すべき注意義務違反による不法行為に基づき、店舗内備品、家財道具等の焼失、休業損害、新住居兼店舗への移転費用等、慰謝料、弁護士費用の各損害につき、X1について19,513,750円、X2について8,913,750円、X3について440万円の各損害賠償及びこれらの各金員に対する不法行為の日である平成3年7月1日から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを請求した。

理由

本件では、上記(1)(2)(3)(4)(5)(6)の間接事実が認められるのであるから、本件火災は、本件冷凍庫を発生源とするものであることを推認することができるのである。そして、本件では、右推認を覆すに足りる反証がされていないのであるから、本件火災は、本件冷凍庫を発生源とするものであるとの事実を認定するほかないのである。

 X1は、本件冷凍庫を本件レストランの営業のために食材の冷凍保存の用途で使用していた。これは冷凍庫本来の使用目的に従った使用方法であるところ、それにもかかわらず、本件冷凍庫が発火し、本件火災の発生源となったものであるから、本件冷凍庫は、本件火災当時、通常有すべき安全性を欠いていたというべきであり、この意味で欠陥があったものといわざるを得ない。

 消費者が、本来の使用目的に従って製造物を使用し、事故が発生した場合において、その時点で製造物に欠陥が存在したときは、特段の事情が認められない限り、製造物が流通に置かれた時点において、欠陥が存在していたものと推認することが相当である。

 本件においても、本件冷凍庫は、食材の冷凍保存という本来の使用目的に従って使用されていたにもかかわらず、発火したものであり、特段の事情も認めることはできないから、Yにより本件冷凍庫が流通に置かれた時点において、欠陥が存在していたものと推認すべきであることになる。

 そして、本件において、製造者たるYが調査、研究を尽くしてもなお本件火災による損害の発生を予見できなかったと認めるべき特段の事情は存しないから、本件火災による損害の発生についてYは予見可能であったと認められる。

 そして、安全性確保義務の性質上、本件冷凍庫について流通に置かれた時点において欠陥が認められる以上、製造者たるYが本件冷凍庫を流通過程に置くに際して、安全性確保義務の過失があったものと推定することができ、右推定を覆すに足りる特段の事情は認められない。

 以上によれば、Yには、本件冷凍庫を流通に置くに際して、安全性確保義務に違反した過失が認められる。したがって、Yは、X1X2X3が、本件火災により被った損害を賠償すべき責任がある。

解説

本件は、冷凍庫からの出火につきメーカーの過失が認められ、損害賠償が命じられた事例である。

 家電製品からの出火事件では、下記大阪地裁の2判決(参考判例(1)(2))がメーカーの責任を認め、他は原告が敗訴しているが、勝訴事案は家人が在室しており、目撃証人があるケースであった。本件は家人不在中の出火のケースで、製品自体や周囲の焼毀状況などから、製品からの出火を認定し、メーカーの賠償責任を認めた初のケースである。

 また、原告が欠陥の部位を特定することまで要求されるか否かにつきPL法の立法過程で論争があったが、本判決は、下記大阪地裁の2判決に引き続き、これを不要とする判断を示し、論争に決着をつけたものという見方もできる。

 本判決の考え方は、判決文中に「補論」としてまとめられているので、以下に引用する。

 <1>本件では、本件冷凍庫の欠陥の有無を認定するに当たり、原告らが、本件冷凍庫内部の発火箇所、発火の機序、発火の原因となった本件冷凍庫の欠陥(以下「製品の具体的欠陥等」という。)について主張立証責任を負うか否か問題となったので、付言しておく。

 <2>工業製品の製造に要する技術は高度かつ専門的であり、製造過程も複雑化されているが、一般消費者である利用者は、それらに関する知識を有していないのが通常である。このような場合に、消費者たる原告側が、本件のような訴訟において、本件冷凍庫が本件火災の発生源である旨の主張立証をするだけでなく、その具体的欠陥等を特定した上で、欠陥が生じた原因まで主張立証責任を負うとすることは、損害の公平な分担という不法行為法の理念に反するものであり、妥当でない。このことは、製品が完全に損壊し、欠陥を特定することができなくなった場合には、常に製造者が免責されることになってしまう事態を想定すれば明らかである。

 したがって、消費者たる原告らは、製品の具体的な欠陥等については基本的に主張立証責任を負うものではないと解すべきである。もっとも、原告らが審理の対象を明示する趣旨で、右の点を主張し、これを立証することは、もとより許容されるものであり、それが可能である場合には、むしろ、そうした訴訟追行をしていくことが、民事訴訟法上当事者に課せられている信義則(民訴法二条)に照らし、望ましいものというべきである。

 <3>そして、本件では、原告らは、本件冷凍庫の発火の原因がサーモスタット部品のトラッキングであること及びその燃焼経路等について主張し、この点に関して当事者双方において攻防が尽くされてきたという訴訟の経緯があり、これは前記の通り、一定の評価をすることができる訴訟追行であったといえる。

参考判例

  1. (1)大阪地裁 平成六年三月二十九日 判決
    判例時報一四九三号二九頁、判例タイムズ八四二号六九頁(テレビの発火により生じた火災により被った被害について請求を認容した事例)
  2. (2)大阪地裁 平成九年九月十八日 判決
    判例タイムズ九九二号一六六頁(テレビからの発火により自宅兼事務所が全焼し、娘が死亡した事件について請求を認容した事例)
  3. (3)東京地裁 平成九年十二月二十六日 判決
    判例集未登載(大型テレビの火災により絵画等が焼失したとして二十億円余の損害賠償を求めたところ請求が棄却された事例)
  4. (4)東京地裁 平成十年三月二十三日 判決
    判例時報一六五一号九二頁(火災により子供を亡くした夫婦が、右火災はテレビによる発火が原因であるとし、その製造者および販売者に対して損害賠償を求めたところ請求が棄却された事例)
  5. (5)東京地裁 平成十一年三月二十九日 判決
    判例時報一六七七号八二頁(会社経営者が自宅居間兼事務所において発生した火災につきメーカーらに損害賠償を求めたところ請求が棄却された事例)