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[1999年12月:公表]

住宅ローン利用特約に基づく売買契約の解除が認められた事例

 本件は、居住用土地建物の売買契約を締結し、手付金を支払った買主が、その後、金融機関から融資を断られたため、売買契約中のローン特約に基づいて売買契約の解除と手付金の返還を求めたところ、買主は融資を受けるべく真摯な努力を尽くしており、買主の責めに帰すべき事由により融資が拒絶された場合には当たらないとして、買主の主張を認めた事例である。(東京地方裁判所平成九年九月十八日判決)

  • 判例タイムズ980号206頁、判例時報1647号122頁
  • 確定

事件の概要

X:原告(消費者)
Y:被告(不動産業者)

(関係者)
A:不動産業者
B:信用金庫
C:銀行
D:銀行

 Xは、平成7年1月28日不動産業者であるAの仲介により、Yとの間で代金1億2千万円で本件居住用の土地建物を購入する旨の売買契約を締結し、手付金として1千万円を支払った。本件売買契約にはいわゆるローン条項(本件ローン特約)があり、融資が買主の責めに帰すべからざる事由で住宅ローンを組めない場合には、買主に解除権を認め、その解除の効果として手付金等受領済みの金員の返還義務を認める定めが置かれており、その期限は同年2月17日までとされていた。

 Xは、B信用金庫に本件不動産購入のための融資を依頼したが、ローン審査の結果が2月17日までに出るのは困難であった。そこで、期限前日の2月16日に本件ローン特約の期限延長を求めたりといった経過をたどり、2月27日、XはYと協議して、本件ローン特約の期限を3月23日に変更すること、住宅ローンの申込先をC銀行およびD銀行にすること、5千万円を変動金利で借り入れること、償還年数を融資申込先の規定による最長年とすることなどを合意した。

 Xは、本件合意に基づき各銀行に住宅ローンの申し込みをしたが、3月18日までにB信用金庫、C銀行、D銀行から融資できないとの回答を受けた。その理由は、年収金額に対する毎年の融資金額の割合が融資基準を超えること、住宅ローンは、最終返済時の年齢が満70歳以下でなければならず、満75歳までの大型ローンもあるが、Xには保証をしてくれる第3者が存在しないので、利用できないことなどである。

 このような経過の下で、3月18日、Xは本件ローン特約に基づき、本件売買契約を解除する旨の意思表示をし、手付金1千万円の返還を求めた。これに対してYは、「Xは真摯なローン申し込みをせず、意図的に融資拒絶の結果を招来させた」などとして返還を拒絶した。そこで、Xは本件訴訟を提起した。

理由

買主が住宅を購入する場合、現金で購入することは希であり、金融機関から融資を受けてこれを売買代金の一部に充当するのが通常であるから、買主が一定の期間内にローンを組むことができず、資金調達ができなかった場合にまで、売買契約の支払義務違反を理由に手付金等を没収する等の結果が生じることは、買主にとって極めて酷な事態となる。

 右観点から、一定の期間内に買主が金融機関等から融資を受けて売買代金を調達する予定であったにもかかわらず、債務者である買主の責めに帰しない事由により資金調達できなかった場合には、買主保護のために売買契約解除を認めるというのが本件ローン特約の趣旨である。

 そこで、本件において、Xが金融機関との間で5千万円の融資契約を締結できなかったことについて、Xに帰責事由があるかどうかが問題となる。

 殊に、(1)一戸建て建物の購入はXらの長年の希望であり、本件不動産が希望条件をほぼ満足していたことから、Xらは積極的に購入を決断したものであること、(2)Xは、本件不動産を取得したいという気持ちから、本件ローン特約の特約期限を延長してもらうため、住宅ローンを固定金利で組みたいという当初の希望を断念してまでも変動金利にする旨を承諾し、本件合意をしたものであること、(3)Xは、本件合意後、直ちに銀行の各支店等にローンの申し込み手続きを積極的に行ったこと、(4)Xは、少なくともB信用金庫とC、D銀行(6支店)に対し、住宅ローンの申し込みを行ったが、いずれも融資基準に満たないとして断られたこと、(5)XはAの助言に基づき、ローン審査が通りやすいようにするため、本件合意後、共済組合からの借入予定事実を殊更伏せる等して融資が受けられるよう努めていること(相当な行為かどうかは別問題)、(6)X側は、各金融機関に対し、ローン審査が通らない理由を銀行の融資基準資料と根拠計算等に基づき、具体的に説明を受けた上、C銀行の各支店にも融資条件について問い合わせる等、融資の可能性を積極的に探っていること、(7)満75歳までの融資については、収入面、保証人、団体信用生命保険に加入することの可否等の面でXは融資条件を満たさなかったこと等の事実に照らすと、Xが本件合意による本件ローン特約の延長期限である3月23日までに5千万円について融資を受けられなかったとしても、Xは買主として、本件不動産の購入資金の一部に充てる5千万円の融資を受けるべく真摯な努力を尽くしており、買主の責めに帰すべき事由により融資が否認された場合には当たらないというべきである。

 してみると、XのYに対する本件売買契約を解除する旨の本件意思表示は有効であると認めるのが相当である。

解説

居住用の土地建物を購入する買主は、金融機関から購入資金を借りて代金の一部に充てることが多く、予定した融資が受けられないと買主は売買代金の支払いに窮することになる。そこで、この種の売買契約には、融資が受けられない場合に買主の解除を認めるとともに、売主が受け取った手付金等の返還義務を定める条項が置かれることが多い。こうした条項をローン特約という。

 ローン特約において、買主が融資を受けるための努力をしなかった場合にまで解除を許すと、任意の解除を認めるに等しい結果となるので、解除を認めるためには一定の要件が必要となる。他方で、この要件を厳格に課すと、買主が解除できず、売主が手付金を取得し得ることとなり、買主が融資を受けられない場合に備えるというローン特約の趣旨が無意味になってしまう恐れがある。

 この点について、本件では、融資が買主の責めに帰すべからざる事由により拒絶された場合に解除権を認めるとされているので、融資が拒絶されたことについてのXの帰責事由の有無が争点になった。Yは、Xは仲介人であるAと共同して融資の申し込みをし、申し込みが正確になされたかどうかをAにチェックさせて初めて解除が許されるのに、Aにこのような関与をさせなかったから本件解除は認められない、などと主張した。本判決は、XY間にAを関与させる合意はなかったことや、Xが積極的に融資の可能性を探っていたことなどを認めて、Xには融資が受けられなかったことにつき帰責事由はないとして、Xの解除を正当とした。

 本件のXに帰責事由がないとした判断は妥当であるが、本件のXは、融資を受けるためにかなりの努力を払っており、帰責事由がないと言えるために、これ程の努力が必要と考えることは妥当でないであろう。

参考判例

  1. (1)東京地裁 平成五年十一月二十五日 判決
    判例時報一五〇〇号一七五頁(ローンが実行されない場合には売買契約を解除できる旨の合意の成立は否定したが、要素の錯誤により契約は無効とした事例)
  2. (2)東京地裁 平成八年八月二十三日 判決
    判例時報一六〇四号一一五頁(住宅ローン特約に基づく解除を肯定した事例)