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[1999年9月:公表]

貸金業者の債権回収行為で損害賠償責任が認められた事例

 本件は、貸金業者の従業員が、母親の滞納した貸金の回収をするため、息子を巧みに誘導し、経済的余裕のないことを知りながら、支払い義務のない同人にその貸金業者から新たな借り入れをさせて、その金で母親の債務を弁済させた行為について、慰謝料を含む貸金業者の使用者責任に基づく損害賠償を認めた事例である。(大阪地裁平成十年一月二十九日判決)

  • 判例タイムズ974号158頁、判例時報1643号166頁

事件の概要

X:原告(債務者Bの息子)
Y:被告(貸金業者)

(関係人)
A:Yの従業員
B:Xの母(債務者)

 Xは、昭和47年生まれの会社員で、Yは、貸金業の登録を受けた貸金業者である。Xの母親であるBは、昭和62年ころ家出をし、平成5年8月にXの父親と協議離婚しているが、平成3年3月以降11回にわたって合計33万2千円をYから借り受け、平成5年1月まで滞りがちながらその返済を続けてきたが、右翌月以降返済をせず、右最終返済時における残元金は約16万円であった。

 Xは、Bの家出後、父親及び妹と同居していたが、平成3年3月、高校を卒業後就職し、会社員として1人暮らしを始め、同年10月に他の会社へ転職した。平成5年当時の原告の収入は手取りで月収約15万円、年収約200万円であった。

 Xが働き始めて2カ月ほどして、BがXを訪ねてきてお金を貸して欲しいと執拗に懇請されたため、父親に内密に貸金業者から金員を借り受けBに融通するようになり、Yからも同年10月に10万円を借り入れたのをはじめ、繰り返し金員を借り入れるようになった(平成5年1月における融資限度額は30万円)。

 Bは、平成4年末ころまでXに返済のための金員を渡していたが、平成5年1月ころ音信不通となったため、XはYからの入金がなくなり生活が苦しくなったため、同年3月末アパートを引き払って父親と同居するようになっていた。

 Yの従業員であるAは、Bに対する貸金の回収をはかるため、Xに対し、平成5年6月と同年12月に各10万円の金員を新たに貸し付け(以下、本件各貸付という)、YはBの債務の弁済として、同年6月に2万6千円、同年12月に2万8千円、同年7月から平成7年10月まで15回1万円ずつ計15万円の合計20万4千円の支払いを受けた(以下、本件各返済という)。平成5年12月現在Xは、Yの他の貸金業者からも3件計96万円の借り入れがあり、Yはこのことを知っていた。

 本件は、Yの従業員Aが、YのBに対する貸金を回収するため、貸金業の規制等に関する法律の規定に違反して、支払い義務のないXをして必要のない借り入れをさせるとともに、Bに対する貸金の弁済をさせたとして、XがYに対し、民法七一五条に基づく損害賠償(本件各返済額20万4千円、慰謝料200万円、弁護士費用10万円、合計230万4千円)を求めた事案である。

 本件における争点は、AはXに対して本件各返済を求め、本件各貸付を受けるよう働きかけたか、Aの右行為は、不法行為を構成するか、という点である。

理由

Xは、本人尋問において、「本件各貸付や本件各返済につき、Aから働きかけを受けた」旨供述をするとともに、同旨の陳述書を証拠として提出するが、他方、Aは本件各貸付や本件各返済は、Xの申し入れに基づくもので、Aの方から働きかけたことは一切ない旨証言する。Xの供述等の信用性については、記憶の不明確なところや曖昧な部分があるが、Aからの働きかけがなければ、自発的に本件各返済をしたり、本件各貸付を申し込むことはなかった点においては一貫しており、また、平成5年1月以降、XはBと全く連絡が取れない状況にあったことに鑑みると、Aから何の働きかけもないのに、Xの方から自発的に、Bのために借り入れをしてまで、本件各返済を申し出るとは考え難い。他方、Yには、顧客ごとに貸し付けや督促などのやり取りを記録した文書が存し、同文書はAの証言の裏付けとなる重要な証拠となるのにその提出がないなど、Aの証言はそのまま信用できない。

 Xの前記供述等によると、Aは、XからBに対する貸金の回収を図るため、Xに対し、平成5年6月と同年12月にそれぞれ10万円の貸し付けを受けて返済をなすよう、平成6年7月には、残額の分割返済をなすよう、それぞれ働きかけ、Xから難色を示されると、いずれも「今払ってくれないと、債権の管理が札幌にいってしまい、帯広でお母さんを捜せなくなる」などと申し述べ、Xの了解を得ていたと認められる。前記Aの働きかけは、欺罔や威迫を伴ったものであったと認めるに足りる証拠はないが、Aの働きかけがなければ、Xが本件各貸付を受け各返済をなすことはなかったものであること、Xが本件各返済に難色を示したにもかかわらず、巧みにXを誘導してその了解を得たものであることからすると、Aの働きかけは、法律上支払義務のない者に対する支払請求を禁じる大蔵省銀行局長通達(以下、「通達」という)第二の三(1)ニの精神に違背する。また、本件各貸付は、本来不必要な金額の債務をXに負担させたもので、その勧誘行為は、顧客の必要とする以上の金額の借入れの勧誘を禁止する通達第二の一(2)イに違背する。さらに、Aは、Xに経済的余裕のないことを知りながら、Xに対し義務のない本件各返済を促す働きかけをしたもので、その行為は社会的に容認し難いものである。

 以上の通り、Aの行為は貸金業法の規制を具体化した通達やその精神に違背し、貸金業者に国家的社会的に求められる規範を逸脱するのみならず、社会的にも容認し難いものを含むものであるから、社会的相当性を欠く行為として不法行為を構成する。なお、慰謝料額は20万円が相当である。

解説

「貸金業規制法」に関する大蔵省通達(蔵銀第二六〇二号昭和五十八年九月三十日)第二業務一過剰貸付けの防止(2)貸金業者の執るべき措置イでは「貸金業者は、顧客に対し、必要とする以上の金額の借入れを勧誘したり、借入意欲をそそるような勧誘をしてはならない。」と定められ、同第二の三取立て行為の規制(1)貸金業者等がしてはならない行為ニでは「法律上支払義務のない者に対し、支払請求をしたり、必要以上に取立てへの協力を要求したりしてはならない。」と定められている。

 従来、サラ金業者等の行き過ぎた債権回収行為が不法行為に当たるとして、慰謝料等の損害賠償を認めた判例(後掲参考判例参照)はいずれも、暴行、脅迫等社会的相当性を超えた違法な権利行使を不法行為としたものである。これに対し、本件は、母親の債務について、返済義務のない息子に対して返済を働きかけた欺罔や脅迫等を伴わない勧誘行為を不法行為と認め、慰謝料の支払いを含め、損害賠償を認めたものであり、注目される。

 なお、本判決は、慰謝料について、「Xは当時、複数の貸金業者に対する借財を抱えた経済的に苦しい生活をしており、そのような中、更なる借財をするなどして本件各返済の資金を捻出したもの」で、「XはAの不法行為により、右財産的損害の填補を受けただけでは慰謝されない精神的苦痛を受けたというべきである。ただし、AのXに対する働きかけは、威迫や欺罔等Xを困惑させる言辞を伴ったものではなく、かえって、Xの供述によると、Xはその当時、Aについて親切な人であるとの認識を有していたというのであるから、Xの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は、20万円と認めるのが相当である」としている。

 本件は、独立して生活をしているXに、行方不明となった母親Bの債務を負担させたという事案であり、同居して共同生活を営む夫婦や親子の場合まで、このようにいうことができるかは、今後の判例の積み重ねが待たれよう。

参考判例

  1. (1)四日市簡判 昭和五十九年七月十日 判例時報一一四四号一三六頁
  2. (2)福岡地小倉支判 昭和五十七年七月十六日 判例時報一〇五七号一一七頁
  3. (3)新潟地判 昭和五十七年七月二十九日 判例時報一〇五七号一一七頁
  4. (4)山口地判 昭和五十九年二月二日 判例時報一一二三号一二七頁
  5. (5)小倉簡判 昭和六十一年十月二十八日 判例時報一二二二号一三〇頁