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[1999年4月:公表]

訪問販売で年2回以上の取引にクーリング・オフが認められた事例

 本件は、1年以内に2回以上の取引がある無店舗販売業者との契約についてクーリング・オフが認められた事例である。(長崎地方裁判所平成十年三月十八日判決)。

  • 消費者法ニュース35号19頁

事件の概要

X:原告(消費者)
Y1:被告(販売会社)
Y2:被告(信販会社)
Y3:被告(信販会社)

(関係者)
A:Y1の販売員

 X(消費者)は、平成6年11月18日ごろ、自宅にY1の販売員であったAの訪問を受け、健康布団(マット1点)を代金39万円で買うことにして注文した。同月25日ごろ、AかマットをXの自宅に配達した際に、XはY3(信販会社)との立て替え払い契約を利用することにし、クレジット申込書(4枚つづりの複写式で1枚目が購入者用で訪問販売法第五条の書面に該当)の申込書欄に記入して署名捺印したが、さらにシート1枚(代金1万2千円)とタイツ2枚(代金1枚当たり1万2千円)を買うことになったことから、右申込書には商品名、金額などは記入されず、A(販売員)が持ち帰った。同年12月7日ごろ、Aがシート1枚とタイツ2枚を配達したが、X(消費者)が注文していたタイツのサイズがなかったことから、Xはタイツ2枚については撤回し、その代わりに1枚当たりの代金額が同一であるシートをさらに2枚買うことにした。ところが、AはXかマットのほかに、シートを3枚ではなく、4枚買ったものとして金額を記入して申込書を完成させた。同月13日ごろ、Y3(信販会社)から電話で意思確認がなされた。

 また、平成7年2月10日ごろ、Xは自宅にAの訪問を受け、2個で1組のダイヤモンドの購入を勧誘され、指輪およびネックレスに加工されたものを代金268万円で買い受け、分割払いとする契約をした。ところが、A(販売員)は右代金が高額であったことから、X(消費者)の信用度との関係上、1社の信販会社だけでは立て替え払い契約が成立しないと考え、Xに2枚の申込書に署名捺印させたうえで持ち帰り、Y2、Y3(信販会社)に限度額を確認したうえで、Y3へ110万円、Y2へ158万円を立て替え払い申込書に記入した。同月16日ごろ、Y2、Y3は、Xに電話で意思確認を行った。

 X(消費者)は、平成7年12月16日ごろ、Yら(販売会社・信販会社)に対し、本件各契約についてクーリング・オフする旨の意思表示をしたが、Yらが認めなかったので、本件訴訟(債務不存在確認)を提起した。Yらは、Xは、(1)Y1(販売会社)から、平成6年7月26日ごろにプラチナと真珠製の指輪を36万円で、同年8月26日ごろに18金と真珠製の指輪を7万4千円で、それぞれ買い受けているから、訪問販売法第十条第二項第二号(解説の項参照)、同法施行令第七条第三号(解説の項参照)に該当し、クーリング・オフの規定は適用されない、(2)各契約について法定書面を交付しているからクーリング・オフの権利は消滅した、(3)シートは同法第六条第一項第二号(「契約の申込みの撤回等」)により使用済みであるからクーリング・オフできないなどと主張した。

理由

訪問販売法第十条第二項第二号にいう「通常購入者の利益を損なうおそれがないと認められる」場合とは、*「一般的にみて、法がその保護を目指している保護法益が侵害されるおそれがないと認められる場合であり」具体的には、購入者の意思が不確定なまま商品購入を押し付けられたり、履行をめぐって紛争が発生したり、販売業者の責任追及が困難となるなどの危険性が生じない場合である。ただ、右要件を満たすかどうかが不明確であると、法的安定性を害することから、該当するかどうかをあらかじめ明らかにするために、右要件に当たる取引態様を具体的に政令で定めたものである。

 *「とすると、実際の具体的な契約において、購入者の利益を損なう場合であることが認められれば」形式的には政令の条項に該当する場合であっても、法的安定性に譲歩を迫る結果となっても、原則に戻り、法第四条(書面交付)ないし第七条(「契約の解除等に伴う損害賠償等の額の制限」)の適用があるというべきである。

 本件についてみると、マットおよびシートの売買契約については、代金額がシート1枚を加えた金額に無断で修正されていること、シート2枚を渡したと認めるに足りる証拠がないこと、Y1(販売会社)が交付したと主張する申込書が作成された後に、Y3(信販会社)によって分割支払い金額などが修正されており、X(消費者)にその点についての明確な認識があったとは認めがたいこと、ダイヤモンドの売買契約については、指輪とネックレスが同価値同品質のものと説明がなされたにもかかわらず、必ずしも同価値同品質であるとは認められないこと、1つの売買契約であるにもかかわらず、代金額が2つに分けられて立て替え払い契約が締結されていること、過去1年内に締結された貴金属の売買契約に比較して、代金額が大幅に高いものであり、X(消費者)の意思が不確定なままいわゆる衝動買いをしたことがうかがえることが認められ、これらを総合すると、購入者であるXの利益を損なっているというべきである。したがって、原則に戻り、訪問販売法第四条ないし第七条の適用があるというべきである。

 そして、Y1(販売員)はX(消費者)に法定書面(申込書)を交付したと認められず、また訪問販売法第六条第一項第二号の適用は申込者が同法第四条または第五条の書面を受領した場合であることを要件としていることから、Xによるクーリング・オフによる解除の意思表示は有効であり、XはY2、Y3(信販会社)に対して、売買契約の消滅をもって対抗できる。

解説

訪問販売法第十条第二項は、同法第四条から第七条(書面交付、禁止行為、クーリング・オフ、契約の解除等に伴う損害賠償等の額の制限など)までの適用を除外される場合として次の2つの場合を規定している。すなわち、一号は購入者から住居の訪問を求めた場合であり、二号が「販売業者又は役務提供事業者がその営業所等以外の場所において指定商品若しくは指定権利若しくは指定役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申し込みを受け又は売買契約若しくは役務提供契約を締結することが通例であり、かつ、通常購入者又は役務の提供を受ける者の利益を損なうおそれがないとみとめられる取引の態様で政令で定めるものに該当する訪問販売」である。そして、訪問販売法施行令第七条は、御用聞きによる販売(一号)、店舗販売業者による過去1年内に取引のあった相手方に対する販売(二号)、無店舗販売業者による過去1年内に取引のあった相手方に対する販売(三号)、事業所の管理者の書面による承認を受けて行う事業所での販売(四号)を適用除外の態様として列挙している。店舗販売業者と無店舗販売業者とで、適用除外されるための要件として、過去1年内の取引実績が1回と2回以上というふうに差がつけられているのは、店舗販売業者は無店舗販売業者に比べて一般的に訪問販売の活動範囲が制約され、また日常店舗を通して消費者との取引関係があり、相対的に消費者との信頼関係が強く、もしトラブルが発生しても、消費者は直接店舗に行って販売業者を追求しやすいからである。本件のY1(販売会社)は、無店舗販売業者である。

 本判決の前記[理由]第1段落の同法第十条第二号第二項の趣旨の部分*「一般的にみて、法がその保護を目指している保護法益が侵害されるおそれがないと認められる場合であり…」は通商産業省の解説書「訪問販売等に関する法律の解説」のとおりであるが、[理由]第2段落*「とすると、実際の具体的な契約において、購入者の利益を損なう場合であることが認められれば…」のように解して、クーリング・オフの対象となる取引において購入者の利益が損なわれている場合は、原則に戻って書面交付義務などの規定が適用されるとの判旨は、本判決が初めてであり、画期的である。

 訪問販売法第十条第二項第二号に関しては、日本工芸展特選作の大鉢の訪問販売について、その1年内に同じ販売業者と別の商品の購入契約をした者であっても、その契約についてクーリング・オフがなされている場合は、同法第六条の適用を妨げられないとした裁判例がある(広島高裁松江支部平成八年四月二十四日判決消費者法 ニュース二八号七三頁)。