独立行政法人国民生活センター

検索メニュー

×閉じる

現在の位置:トップページ > 相談事例・判例 > 消費者問題の判例集 > ゴルフ会員権確認訴訟事件

ここから本文
[1998年10月:公表]

ゴルフ会員権確認訴訟事件

 本件は、ゴルフ場ののり面(盛り土によってできた土の傾斜面)崩壊により、ゴルフ場経営会社か、クラブハウスの建築を含めたゴルフ場の全面改修工事を約130億円かけて行い、その後営業譲渡を受けた会社(本件事例の被上告人)か営業譲渡以前からのゴルフ会員らに対し、1千万円の追加預託金か預託金払い戻しによる退会の選択を迫ったところ、これを拒否した会員らが、ゴルフ会員権確認訴訟を提起し、勝訴した事例である。

 最高裁がゴルフ場経営会社の主張する「事情変更の原則」について、その判断を示した事例である。(最高裁判所平成九年七月一日破棄自判)

  • 判例時報1617号64頁、判例タイムズ953号99頁

事件の概要

X:ゴルフ場クラブ会員(上告人)
Y:ゴルフ場経営会社(被上告人)

(関係人)
A:ゴルフ場開発会社
B:Aよりゴルフ場の営業譲渡を受けた会社

 Aは、27ホールの本件ゴルフ場の造成工事を完成させた後、昭和48年7月に開設した。Xらは、Aとの会員契約(預託金50万円程度)に基づくゴルフ場の個人会員てあった。

 その後、Bは昭和62年9月、Aから本件ゴルフ場の営業を譲り受け、さらに、Yは平成4年3月にBから本件ゴルフ場の営業を譲り受けた。

 本件ゴルフ場は、のり面の崩壊が生じやすくなっており、開業以来たびたびのり面の崩壊が発生していた。

 平成2年5月には応急措置としての修復はされたものの、結局はのり面の崩壊により営業が不可能となった。

 そこでBは、すべてのコースを閉鎖し、全面改良工事に着手した。兵庫県は、平成2年5月から平成3年6月まで4回にわたり、本件ゴルフ場に対して防災処置を取るよう要請していた。

 本件改良工事にかかった費用は、クラブハウスの建築も含めて約130億円である。BおよびYは、Aの時代からの会員に対して、追加預託金1千万円の預託または預託金払い戻しによる退会の選択を迫り、追加預託に応しないXらのゴルフ場優先利用権は事情変更の原則により取り消すと主張した。

 Xらは、これらの請求を拒否して会員権確認請求訴訟を提起した。控訴審(原審)では、これを認容した第一審判決を取り消し、事情変更の原則を適用して請求を棄却した。原審の判断の概要は、以下のとおり。

  1. 1. ゴルフ場は、のり面崩壊が生じやすい状態にあったが、平成2年5月にのり面崩壊により営業不能となり、Bは約130億円かけて全面改修工事を実施し、右工事およひ費用は必要最小限のやむを得ないものと認められる。
  2. 2. Bは、営業譲渡時には、本件のような大規模防災処置の必要性が生ずることを予見しておらず、予見不可能であった。
  3. 3. 多額の費用を要した改良工事後のゴルフ場利用について、追加預託の負担を拒むXらに優先的利用権を認めることは信義衡平上著しく不当であり、事情変更の原則が適用される。

 というものであった。そこでXらか上告した。

理由

事情変更の原則を適用するためには契約締結後の事情の変更が、当事者にとって予見することができず、かつ、当事者の責めに帰することのできない事情によって生じたものであることが必要であり、かつ、右の予見可能性や帰責事由の存否は、契約上の地位の譲渡があった場合においても、契約締結時の当事者においてこれを判断すべきである。

 一般に事情変更の原則の適用に関して言えば、自然の地形を変更してゴルフ場を造成するゴルフ場経営会社は、特段の事情のない限り、ゴルフ場ののり面に崩壊が生じ得ることについて予見不可能であったということができず、また、これについて帰責事由かなかったということもできない。

 けだし、自然の地形に手を加えて建設されたかかる施設は、自然現象によるものであると人為的原因によるものであるとを問わず、将来にわたり災害の生ずる可能性を否定することはできず、これらの危険に対して防災措置を講すべき必要の生ずることも全く予見しえない事柄とは言えないからである。

 本件ゴルフ場は、自然の地形を変更して造成されたものであり、Aがこのことを認識していたことは明らかであり、同社の特段の事情が存在したとの主張立証もないので、事情変更の原則の適用に当たっては、Aが本件ゴルフ場におけるのり面の崩壊の発生について予見不可能てあったとは言えず、また、帰責事由かなかったということもできない。そうすると、本件改良工事およびこれに要した費用130億円が必要最小限度のものであったか否かを判断するまでもなく、事情変更の原則を本件に適用することができないと言わなければならない。

解説

ゴルフ会員権に関するトラブルの中には、ゴルフ場経営会社の変更に伴って追加預託金の支払いを求められたり、ゴルフ場の改良工事のために多額の施工費用がかかったことなどを理由に、追加預託金の支払いを求められる、というタイプのものが少なくない。

 本件事案は、ゴルフ場経営会社か2度にわたり営業譲渡により替わっているうえに、ゴルフ場ののり面の崩壊のために営業が不可能となったため、営業譲渡を受けた業者が130億円をかけて修復工事と新たなクラブハウスの建設を行い、これにかかった費用を、それまでのクラブ会員に対して約1千万円の追加預託金の支払いとして請求し、これを拒否した会員に対しては、当初の預託金(約50万円)の払い戻しによる退会を求めたため、これらのいずれも拒否した会員20名が従来どおりの会員の権利を主張して訴訟を提起して争ったというものである。

 本件では、事情変更の原則の適用があるかどうかが争点となった。事情変更の原則とは、「契約締結後、その基礎となった事情が、当事者の予見し得ない事実の発生によって変更し、このため当初の契約締結後、その基礎となった事情が、当事者の予見し得ない事実の発生によって変更し、このため当初の契約内容に当事者を拘束することが極めて苛酷になった場合に、契約の解除または改定が認められる」(我妻栄、「債権各論」(上)、通説)とする考え方である。

 本件では、のり面の崩壊とそれに伴う改良・修復工事の必要性に関して、事情変更の原則の適用がされるか、具体的には予見可能であったかどうかの判断をめぐって上告されたため、最高裁判所では、この点を中心に判断を示したものである。

 「自然の地形を変更し、ゴルフ場を造成する会社は、特段の事情がない限り、ゴルフ場ののり面に崩壊が生じ得ることについて予見不可能であったとはいえず、帰責事由がなかったともいえない」とする判断は、類似の事案に関して参考となろう。

参考判例

  1. (1)履行期の定めのない土地の売買契約について、事情変更の原則の適用が否定された事例
    (東京高裁 昭和五十二年二月七日 判例タイムズ三五四号二五四頁)
  2. (2)ゴルフ場用地の売買契約について、事情変更の原則の適用が否定された事例
    (高松高裁 昭和五十二年六月二日 金融・商事判例五三八号四三頁)