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[1998年4月:公表]

テレビ発火損害賠償請求事件

 本件は、テレビの発火に関する事例である。
消費者側か勝訴したテレビに関する裁判例として、いわゆる松下電器テレビ発火事件(後述参考判例(1))が有名であるが、本件も消費者側が勝訴した判決であるので紹介する。(大阪地裁平成九年九月十八日判決)

  • NLB628号27頁

事件の概要

X1:原告(被害者Aの父)
X2:原告(被害者Aの母)
Y :被告(製造会社)

(関係人)
A:被害者(25歳 女性)

 本件テレビは、Yが昭和58年ころ製造し、X1らの親戚が同年6月に東京の秋葉原の家電販売店で購入し暫く使用した後、平成2年2月X1らが譲り受けて本件家屋1階事務所に設置して使用していた。

 X1は、平成2年11月17日午後11時30分ころ、本件テレビのスイッチを入れ、X2と見ていたところ、午前1時14分ころ、本件テレヒか突然「シュ、シュ、シュ、パン」という音を立て、その画面か上下黒くなり、中央部に白線が出た後消えた。

 そのうち、本件テレビからマグネシウムか燃えたようなにおいがしてきた。そこでX1らは、本件テレビが故障したものと考え、危険防止のため、X1が本件テレビとアンテナのプラグをコンセントから抜いた。そして、2階へ上がって別のテレビでその番組の続きを見ていたところ、隣室にいたAが「変なにおいがしている」と叫ぶ声を聞いた。

 そこでX1らは、慌てて部屋の戸を開けたところ、廊下か煙で真っ黒で何も見えず、部屋から出られる状態ではなかった。そこでX1は、物干し場から避難し、消火のため1階事務所の窓を割って入ると本件テレビ付近から炎が上かって明るくなっていた。その後消防により鎮火したが、家屋は全焼し、Aは2階で有害煙により窒息死した。

 X1、X2は、平成3年3月8日に、Yに対し、損害の一部として金2千2百万円の支払いを求めて本件訴訟を提起した(同6年9月9日に請求を拡張し、約金1億円とした)。



判決とその理由

製造者の責任を追及しようとする消費者は「当該商品が通常有すべき安全性」を基礎づける事実と当該事故を生じさせた商品がそのような安全性を欠いていた事実(欠陥の存在)を主張・立証すれば足り、商品の欠陥かいかにして生じたか、どうすれば欠陥を防止することができたかなどまで主張・立証する必要はなく、当該商品が通常有すべき安全性を欠いていた事実が立証された場合には、製造者において、欠陥の発生が製造者の安全性確保義務違反によるものではないことを反証すべきである。

 けだし、製造者に対し要求される「当該商品が通常有すべき安全性」の確保は過大なものではなく、最大限の努力、注意を持っても達成できないものとは通常考えられないうえ、仮に、製造者の責任を追及する消費者が、欠陥原因などを具体的に主張・立証しなければならないとすれは、特別な知識も技術も有しない者が、主として製造者の支配領域に属する事柄を解明しなければならないことになり、商品が完全に損壊し欠陥原因の特定ができなくなった場合には、製造者は常に免責されるという不合理な結果となり、不法行為法の本旨にもとるからてある。

 以上のとおりであるから、製造者において前記研究、調査義務が肯定される場合には、消費者において、当該商品をその合理的利用期間内に通常の使用方法によって使用している間に事故が生じたこと、右事故を生じさせた商品が当該商品の通常有すべき安全性」を欠いていたことを立証すれは、製造者に商品を設計製造し、流通に置くに際して安全性確保義務違反の過失かあったものと推定され、製造者において、欠陥原因を解明するなどして右推定を覆さない以上その責任を免れないと解するのか相当である。

 本件テレビは、原告らか、その合理的利用期限内に通常の使用方法で使用していたにもかかわらず、出火し、その結果本件火災に至ったものと認められるから、通常有すべき安全性を欠如していたもの(欠陥の存在)というべきであり、被告には、本件テレビを製造し流通に置くに当たって安全性確保義務に違反した過失かあったものと推認するのが相当である。



解説

本件テレビは、製造物責任法が施行される前に製造されているので同法の適用はなく、民法七〇九条の適用場面であるが、製品事故における「欠陥」と「過失」の考え方を整理し、特に実際の訴訟では大きな争点となっていた原告である消費者はどこまで主張立証すべきかにつき、いわゆる松下テレビ判決の原告には欠陥原因の主張立証までは必要でない、とする考え方を追認し確定させた、意義ある判決である。

 判決は、この種の事件における過失の考え方につき「専門的知識、高度な技術をもって商品を製造している多くの製造者は、自己の製造する商品の物理的、科学的性質等を最も良く理解しているのが通常であって、商品の欠陥から消費者の生命、身体、財産に対し通常生じ得る損害を予見し得る知識を有していることは、当裁判所において顕著てある。右のような製造者の知識、能力等に損害の公平な分担という不法行為法の理念を併せ考慮すると、当該商品の性質からして、商品設計、製造段階において何らかの欠陥か生じればその消費者の生命、身体、財産に損害か生じる恐れがあることが予見される場合には、製造者は、商品を流通に置く前に、可能な限りその安全性を確保するための調査及び研究を尽くさなければならず、その義務が肯定される場合には、製造者は、消費者が右商品を通常の方法で利用していたにもかかわらず発生した損害につき最高の調査、研究を尽くしても予見できなかったことを立証しない限り、消費者の通常の使用により発生した損害に対しても予見可能であったと推認するのか相当である。そうすると、右のような場合には、消費者が商品をその合理的利用期間内に通常の使用方法で使用している際に、当該商品からその生命、身体、財産に生じた損害については、特段の事情がない限り、製造者に発生が予見可能なものであったと見ることができる」とまとめた。

 この考え方は、家電製品一般はもとより消費者が加工などをすることなく使用する消費財にも当てはまる。

 なお、原告は提訴時に一部請求であると明示して2千2百万円の請求をしていたが、3年経過後に請求を拡張した。判決ては、拡張部分については時効により消滅したとされ、認容額は2千2百万円であった。

 この判例の立場には異論もあるが、訴訟が長期化しがちで、提訴時には事故原因や損害の全貌か不確定なことも多く、訴状貼用印紙額か高いこともあり、一部請求で提訴することもありがちなPL訴訟においては、明示的な一部請求をした場合、原告としては時効に十分注意を払う必要がある。



参考判例

  1. (1)大阪地裁 平成六年三月二十九日判決判
    例時報一四九三号二九頁(テレビ発火事件、メーカーに過失かあると推認された)
  2. (2)東京地裁 平成六年五月二十七日判決
    判例時報一四九八号一〇二頁(自転車ハンドル事件、恐怖を覚えたことによる慰謝料が認められた)
  3. (3)大津地裁 平成八年二月九日判決
    判例タイムズ九一八号一八六頁、判例時報一五九〇号一二七頁(自動車事故事件、原告の主張する異常が生じたとは認められないとして請求を棄却した)
  4. (4)大阪高裁 平成九年九月十八日判決
    ((3)の控訴審、原審判決と同旨)
  5. (5)東京地裁 平成九年十二月二十六日判決
    (テレビ発火事件、原告の請求を棄却した)


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